「で、今日の喧嘩は何が原因なんです?」
「……別に喧嘩したわけじゃないし」
「いや、いいから。見たらわかるから」
西郷さんにはもはやお見通しらしい。恐らく不機嫌なオーラを隠しきれていないのだろう。それとも西郷さん宅へやって来る理由がいつも同じだから、察されているだけかもしれないけれど。
「坂本が……珍しく……学食で女の人といたから、誰かなって思って聞いたらえー何? 気になるの? とかニヤニヤ聞いてきてうざかった」
「ほお」
「それで別に興味ないしって言ったら何故か逆ギレされて」
「ふむ」
「お前こそ昨日一緒にいた男誰だよって言われてさぁ、なんなの? 何彼氏ヅラしてくれちゃってんの? って感じで」
「はあ」
「あとは勢いのまま……こう……」
「言い合いになって僕のところに来た、と」
「……まぁそういう感じ」
はあー、と深いため息が聞こえた。うう、呆れられている。わたしがあからさまに落ち込んでいると、西郷さんはぽんぽんと優しく頭を撫でてくれる。他の男の人にされたら身体が硬直してしまうだろうけれど、西郷さんは特別だ。その手つきはまるでお兄ちゃんみたいで心地いい。西郷さんは本当にやさしい。それに比べてあいつときたら。少しは西郷さんの落ち着きを見習ったらどうだろうか。
「まぁ、その人多分、ゼミの実験で一緒になっただけですよ」
「……そうなの」
「髪が短くて、茶髪で、メガネをかけた女の人じゃなかったですか?」
「……! うん、そう」
「じゃあ間違いないですね。その人彼氏いるんで、名前ちゃんが心配するようなことはないんじゃないかなあ」
よかったですね、と西郷さんは笑う。本当に、何もかもお見通しなんだなあ。別に心配とかしてないし、と突っぱねる気力も失せてしまって、身体から力が抜ける。だって女の人と滅多に喋らないあの坂本が、楽しそうに話していたから。もしかしたら、とか色々考えてしまったんだもん。
結局のところ、わたしは坂本のことが気になって仕方ないのだ。
「名前ちゃんももう少し素直になったらいいのに」
「無理だよ。わたし、坂本に絶対嫌われてるもん」
「そんなことないと思いますけど」
「あるよ。絶対ある」
「……仮にそうだとして、名前ちゃんは坂本さんのこと嫌いなの?」
「……きらいじゃない」
「でしょ?」
「そりゃあ、そうだよ。嫌いだったらそもそも喋ったりしないし。むかつくところも訳わかんないとこもいっぱいあるけど、なんだかんだいいやつだし、話してて楽しいし」
喋っていて、あ、そうだったんだ、と気付く。西郷さんの前ではわたし、こんなに素直に色々話せるのに。なんで坂本の前だとあんなふうに意地を張ってしまうんだろう。
「だ、そうですよ。坂本さん」
「……は?」
西郷さん、一体何を?
ガチャリ、クローゼットが一人でに開いて、目を疑う。頭が真っ白になりそうだった。中から出てきたのは顔を真っ赤にした坂本だった。え、え、え、なに、どういうこと。いつからそこに。ていうか、今の全部、聞いて──。
助けを求めるように、西郷さんを見る。にこにこ。超笑顔。随分と楽しそうだ。そこでわたしは気付く。わたし、ハメられた……!! 西郷さんに!!
「……あのさ」
「な、なに」
「別に僕、お前のこと嫌ってない」
「そ、そう……」
ぼそぼそ。何言ってるのちゃんと言ってよ、照れてんのか、と言いたいところだけどあいにくわたしの心臓もびっくりするぐらいバクバク言っているので人のことは言えたもんじゃない。先ほどの自分の発言を思い返し、穴があったら入りたい衝動に襲われる。
「むしろ、その、……」
「……」
「……あー、だから、あの、そのな」
「……」
「っだーー!! 恥ずかしいこと言わせんな!!」
「っえええわたしが悪いの!?」
「大体お前なぁ! 僕と喧嘩したからってすぐ西郷のとこ来んじゃねーよ!」
「なっ! なによ! あんただって来てるくせに!」
「僕は男だからいいんだよ! お前は女だろーが!」
「あーまた仲間はずれですか!? わたしだってねえ! 西郷さんと喋りたい! 変なヤキモチで西郷さんを独占すんのやめてよね!」
「はあああ!? ヤキモチとかじゃねーし!!」
「……あのー、よそでやってもらえませんか」
「「うっさい!!」」
「えぇ……」
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