ねぇ…どうして?
どうしてこんな事になったの?



「いやだよジンっ…おねがっ、もうやめて」

「聞こえねぇな」


豪華すぎるホテルの室内と、それに見合う煌びやかな夜景。そしてその二つに見合うだけの容姿を兼ね備えた、二人の男女。

けれども女の方はその整った顔を酷く歪ませ、目尻に溜まった涙を拭う事もせず目の前の男─── ジンから必死に距離を取ろうとしていた。


「なんで、なんでよ!!なんでこんな事…」


ジンによってベットに組み敷かれたなまえ。

幼い頃から組織に身を置いていた自分がまともな恋愛など出来ようはずもないことくらい、なまえだって十分に理解していたつもりだった。

けれど、それでも。


「初めて、なんだよ…?」


── 自分の初めては好きになった人と。

そんな事をある日なまえがベルモットに告げた時、彼女は確か笑っていた。

組織の人間が言うセリフとはとても思えないわ、と。

幼い頃から相手の急所の捉え方、銃の撃ち方。
組織に身を置く上で必要な事は全て教え込まされていたなまえは、必要であればその全てを使ってターゲットの抹消を図ってきた。

だが、そんななまえであっても思考は至って普通の女の子のそれで。
少女漫画さながらに恋人との休日デートに憧れ、キスも、貞操も。自分の初めては好きな人とがいいと、そうベルモットに洩らした事があった。

…それなのに、


「ほんとにやだ!!!!お願っ、お願いだからやめてよジン…!!」

「言ったはずだ。聞こえねぇとな」

「ッ!!」


捕らえられた顎と、強制的に合わされる瞳。

── こんな形で奪われるなんて嫌だっ…
望まない感情の元で抱かれるだなんて、そんな事…!!


「…んん!!」


けれどもなまえのその意思に反して奪われる唇と、遠慮なく差し込まれるジンの舌。


「んっ!…ふっ あ、」


誰とも重ねた事のない唇が。舌が。
当然息継ぎの仕方だって分からないのにも関わらず、深く深くそれは絡められて。


「舌出せ。逃げんじゃねぇよ」


必死にベットの上へずり上がり、強く押し出そうとするジンの硬い胸板。

…けれども適わない、抗えない。

組織の中でも幹部クラスのジンは一般の男と比べて遥かに力の強さも、筋肉量からして違っていて。

一度組み敷かれてしまえば女のなまえに抗う術などあるはずが無かった。


── やめてよこんな…
こんな形で奪わないでよ…私の初めてを。

組織に未来を奪われただけじゃまだ足りないというの?

昔から夢見てた理想すら、私から奪っていくというの?


「やっ!!」


捲り挙げられる服と、買ったばかりの真新しい下着。

── あぁ…抱かれてしまう。
毎月新作を楽しみにしているこの下着ももう、胸ときめかせて買える事が出来なくなってしまう。


「いっ…たっ、」


荒々しく揉みしだかれる胸。
その先端がジンの口に含まれたかと思うと、まるで電流を流されたかのように鋭い痛みが走った。


「ジンが嫌がるような事したんなら謝るから…だからっ、」


もうやめてと。
弱々しく左右に降る首はしかし、ジンの口端を更に釣り上げさせただけだった。


「テメェが謝る必要なんざ何一つとしてねぇよ」

「っ!! だったら何でッ」

「抱きたいから抱く。男が女を抱く理由なんざそんなもんだろうが」

「ち、が」


違う、と。そんな事ないと強く叫びたかった。

けれどもなまえに男との経験はないし、恋愛感も憧れだけでここまできたなまえにとって、男であるジンからそんな言葉を聞かされてしまえばもう、絶望に落とされるしかなくて。


「そんな、事」

「白馬の王子様でも夢見てたか?だとしたら諦めるこった。そんなもんいやしねぇよ」


抵抗の止まったなまえをいい事に、誰にも触れさせた事のない秘部へと伸ばされるジンの手。


「やっ…! 痛いっ!!」


埋め込まれる指は酷く痛みを伴って。
ただただ痛いだけで。


── ねぇ、…私が夢見てた恋愛なんて存在しないの?

好きになって、相手の気持ちと自分の気持ちが重なって。

そうやって想い合って、触れ合って。
そうやってこういう行為をするもんなんじゃないの?違うの…?


教えてよ、ねぇ。誰か────


「もっ、む、りっ…」

「安心しろ。テメェが望んでる形じゃないにしろ、これからは俺が嫌って程抱いてやるよ」


無理矢理受け入れさせられた男根と、痛む下半身。

頭は必死に警告音を響かせているのに。
拒んでいるのに。


「ふっ、あっ…! っ!」


断続的に与えられる刺激に。
麻痺させられる思考に。


「ハッ。初めてのくせにあっさり受け入れやがって…よがりやがって。あぁ?」

「はっ…んっ! あぁっ!!」


堕ちていく、堕ちていく。

始まりと終わりの境界線も分からないまま。

もはや始まりすら分からないままに。


「テメェは俺のもんだ。この痛みも、受け入れた今日という日も。全部がテメェの初めてで、女になった日だ」


視界の端に映る、乱暴に取り払われた新作の下着。

それは月に一度の楽しみだったのだ。
まだ見ぬ恋人との楽しい未来を夢見て、それを手にする事が。

あぁ、もう…
そんな日が来ることは二度とない。
二度と来ないのだ。来ることは────


女の子になった日.
(それは同時に、大切な何かが壊れた日.)


2017.1.4 企画「殺人現場13号室.」 様提出.