コナン短編 - .

「蘭ちゃ─── ん！園子ちゃん！！｣

「おっ！きたきた。なまえー！こっちよこっちー！！｣

遠目からでも分かるほど小柄ななまえは、ピョンピョンと跳ねて存在をアピールしながら蘭と園子の前へやってきた。

その手にはスーパーの袋。そして中身は───

「ず、ずいぶん大量に買ったわね…チョコ｣

「ちょっと凄い数！！い、一体何枚買ったの？これ…｣

「えっと、ミルクの板チョコが30枚とホワイトのが20枚！後はアーモンドスライスと抹茶パウダーと、｣

「もしかしてももしかしなくてもなまえってその…チョコ作った事、ない？｣

「えっ？！！！｣

園子の言葉にびっくりしたように目を見開いたなまえだったが、それはむしろ園子と蘭の方だ。

耳まで真っ赤になってあたふたするなまえを見て、もはや苦笑するしかない二人。

「そ、その…実は二人が一緒に作ろって話してたのを聞いて混ぜてほしくて……で、でもほんとはチョコ作りなんて一回もした事…なくっ、て｣

「え── ！それならそうと言ってくれれば、材料の買い出しから一緒に付き合ったのに！！いいんだよなまえちゃん、私達の前では普通に何でも言ってくれて｣

「そうよそうよ！まっ！この園子様にかかればちょちょいのちょ── い！でなまえの分もパパーッと作ってあげるから、大船に乗った気持ちでいなさいって！！｣

蘭と園子の言葉に一瞬にしてパッと笑顔になるなまえ。

「良かった！…うんっ！！
あ、足引っ張らないようにして頑張ります！！！｣

「作るって言ってもね、基本的にチョコ作りって市販の板チョコを湯煎にかけて溶かして、型にチョコを流し入れたら冷蔵庫で固めるってくらいの簡単なもので、そう難しいものじゃないんだよ｣

蘭が割った板チョコを入れたボールを湯煎にかけ、ゆっくりと混ぜながらなまえの方を向いてそう言った。

「ただ、今回はなまえちゃんが色々とコーティング出来る材料も買ってきてくれたみたいだから、それなら『トリュフ』にしたら良いかなって｣

「トリュフ…？？｣

「これよこれ！！｣

頭にハテナマークを浮かべるなまえの前に、園子が何枚かの画像をスクロールして見せてくれた。

「あ！これ見た事ある！！｣

「なまえが抹茶パウダーとかココアパウダーとかも買ってきてくれたみたいだから、結構種類も豊富に作れるんじゃない？｣

「て、適当にいくつかカゴに放り込んじゃってただけなんだけど…二人共私に合わせて、作るチョコまで調整してくれてほんとの本当にありがとう！！｣

「いーってことよっ！！…でっ？｣

「えっ？！｣

いきなり園子はスクロールしていた自身の携帯を放り投げたかと思うと、なまえの首に回した腕をぐっと自分の方に引き寄せ、ニヤニヤとした笑みを向けてきた。

「あんたが渡したい相手ってのは誰よ？同じクラスの子？それとも隣のクラス？？｣

「えっ？！えっ？！！｣

「あ！新一くんはダメよ？あれは蘭の未来の旦那なんだから！｣

「ちょっ、ちょっと園子！！｣

園子の言葉にチョコを溶かしていた手を止め、顔を真っ赤にして慌てる蘭。

けれどもなまえはふるふると首を振り、私が渡したい相手は同じ高校にいる人じゃないのと否定した。

「え？同じ高校じゃないってあんた…｣

「なまえちゃんが渡したい相手って、高校生じゃないの？｣

「うん！！私が渡したい相手はね──── ｣

「……で？｣

「ん？｣

蘭と園子との『トリュフ』作りを終えたなまえは現在、一人の男の前に可愛らしいくラッピングされた箱を差し出していた。

「FBIの潜入捜査でお前が現在帝丹高校に在籍している事になっているのは知っているが…｣

これは何だ？と首を傾げる赤井に、なまえは目を合わせないままチョコよ、チョコ！！と叫んだ。

「チョコ…？…お前が俺にか？｣

「こ、この状況でそれ以外に何があるっていうのよ！！いいから早く受け取ってよ！！｣

潜入捜査のまま、つまりは高校の制服を着て赤井にラッピングしたチョコを押し付けるなまえではあったが、本来のなまえは遥か昔に高校を卒業した年齢であり、職業も今目の前にいる赤井と同じFBI捜査官の一人だった。

…ただし、小柄で童顔ななまえはどこからどう見ても未成年にしか見えず、その為今回の｢帝丹高校｣への潜入捜査員として選ばれた訳なのだが。

「は、初めて作ったから味は保証出来ないけど！！で、でも一生懸命作っ……｣

「そのようだな｣

「！！｣

なまえの手から箱を受け取った赤井は、いつの間にやらラッピングの包みをほどいていて。

更には自然な動作で目を逸らしていたなまえの顎を優しくすくうと、その目の前でココアパウダーのついたトリュフをカリッと齧って見せた。

「……っ！｣

「俺の為に作ってくれた物なんだろう？｣

「っ、……っ！｣

「ただしお返しは一ヶ月後じゃない｣

「え？！｣

「今返してやろう｣

「…んっ！！｣

その瞬間、視界いっぱいに広がる大好きな人の顔と、口内に広がる甘いチョコの味。

「答えは…分かるな？｣

「！！……う、うん｣

唇が離れてもまだ至近距離にある赤井の顔と、フッと口角を上げて笑う彼のその独特な笑み。

今し方のキスとその笑みは何よりも雄弁にその答えを示していて────

…初めて作ったチョコ作り。

大好きな人を思って苦戦しながらも、手伝ってもらいながらも作り上げたそれは───

そのチョコは────

トリュフ.

(それは2月14日の甘い魔法.
想いを形にして贈る、大切な大切なプレゼント)

2017.2.23 企画「nuit．｣様提出.