「透!とおる!見てみて!」

「クスッ。そんなに走ると転びますよなまえ」


東都水族館にて。

目当てのペンギンを見つけたなまえは、きゃーっと嬉しそうに笑ってそのコーナーへと駆けて行った。

安室はそれに苦笑しながらなまえの隣に並ぶと、様々な動きを見せるペンギンへと視線を移す。


「ペンギンってね、」

「ん?」


携帯を取り出して楽しそうにカメラのシャッターを押していたなまえだったが、不意にその手を止めると安室の方へと向き直って笑った。


「もし群れの中にいる一匹を無理矢理そこから引き離したとしても、一目散に仲間の元へと帰っていくんだよ。ペンギンは集団で行動する生き物で、群れから離れない仲間意識の強い生き物なの」

「へぇ」


安室はチラと自身の横に貼られているペンギンのプレートを見やるが、そんな事は一言も書いていなかった。

つまり今なまえが言ったそれは、ペンギンが一番好きだという彼女が独自に調べ上げたペンギンの生態なのだろう。


「ペンギンは感情をよく表現する生き物だとも言われててね、一日の中で何回も『愛してる』っていう鳴き声を交わすんだって」

「おや?じゃあ、なまえと一緒ですね」


付き合ってから3ヶ月ほどの月日が経っている二人ではあるが、公安という安室の職業の事もあり、デートは今回でまだ2度目だった。

けれどもなまえは毎日のように連絡をくれるばかりか、一日のうち1回は必ず想いを伝えてくれるような子で。


「透は、好き好き言われるのって嫌?」

「まさか。素直な女性は好きですよ」

「良かった!」


安室が不安そうに自分の事を見上げる愛しい彼女の頭を撫でてそう言えば、なまえは嬉しそうに笑って安堵した。


「あ!見てみて! あっちには白クマがいるみたい!」


けれども早くも次の動物へと興味を示したなまえは、頭を撫でる安室の手を取ってグイグイと引っ張った。


「白クマ見終わったらお昼にしよ!」

「はいはい」


普段公安だったり、黒の組織なる所への潜入で神経を尖らせている安室は、なまえと会った時に触れる彼女のこうした元気さだったり、日々素直に感情を伝えてくれる所だったりに救われていた。

だからなまえとのデートは本当に楽しい。その為安室は、なまえのしたいという事は出来る限り何でも叶えてやりたいと、心からそう思っていた。



「んー、イルカのジャンピングオムライスにしようか、海の幸パラダイスにしようか迷うなぁー」


宣言通りに白クマを見終わった後は水族館に併設されたレストランへとやってきた二人。

メニューを見てなまえが悩んでいるそれは、オムライスの上にケチャップで飛び上がっているイルカが描かれているものと、色々な海の幸を使ったグラタンの二つだった。

安室は名前の割りには普通だなと思ったが、真剣にその二つを見比べるなまえの手前、口にはしない。


「決めた! クリームスパゲティにする!」

「…えっ。 最終的に選んだのは海関係ないやつなんですね」


これにする!と言ってなまえが指差したスパゲティを見た瞬間、さすがにツッコミを入れる安室。

本当に彼女といると飽きないと思う。


「じゃあボクはなまえが最初に迷っていた方のオムライスにしましょうか。シェアしましょう」

「わーい!」


安室のその言葉に、両手を上に上げて喜びを示すなまえ。

暫くして運ばれてきたスパゲティとオムライスを仲良くシェアして食べ終えた後、二人はレストランを出て再び水族館を楽しむ為に歩き出した。


そしてーーー



「今日は本っ当にありがとう!!」


日も沈み、水族館を後にして歩いていたら、不意になまえが立ち止まってそう言った。


「大好きなペンギンも見られたし、大好きな透とここに来れて本当に楽しかった!」

「ボクもですよ。今日あなたとここに来れて良かった」


安室はそう返して繋いでいたなまえの腕を引くと、触れるだけの軽いキスをその唇に落とした。


「…ふふっ」


それを受けて更に嬉しそうに笑ったなまえは、安室の背に腕を回して抱きついた。


「好き。大好き透!」


なまえは抱き返してきた安室の温もりを感じながら、先ほど見たペンギンを思い出していた。

ペンギンは人間と同じように常にお互いに話しかけている生き物で、大きな役割がある時は離ればなれにもなるが、基本的的にはパートナーと長い時間を共に過ごしたがる生き物である。

そして感情をよく表現し、一日の中で何度も『愛してる』という鳴き声を交わす生き物でーーー

好きよ好きよも策略のうち.

(でも好き好き伝える“ペンギン系女子”もいい事ばかりではないから…次の策略はまた考えなきゃだね!)



2017.5.1 企画「共鳴」 様提出.