Gone 消滅した。リソースは恒久的に移動・消滅した。どこに行ったかもわからない。 404 Not Foundと似ているが、こちらは二度と復活しない場合に使われる。 「ドフィドフィ!!」 「あ?」 振り向くとそこにはファミリーの一人であるなまえがいて、手に持つ小さな包みを嬉しそうに掲げながら駆けてくるところだった。 「なまえか。どうした?」 「クッキー焼いたの!だから食べて!食べて!!」 「ほぅ…」 渡されたのは女の子らしく可愛くラッピングされた袋だったのだが、中からは何か…焦げ臭いような微妙な匂いが鼻をつく。 その匂いに思わずドフラミンゴが顔を顰めるも、なまえは全く気付く様子もなくニコニコと笑って続きを口にした。 「ベビー5とね!手軽に簡単!焼かずに出来る時短クッキーっていうのに挑戦してみたの!」 「焼かずに…」 それではこの匂いは一体なんだというのか。 理解出来なくて思わず包みを持っているのとは逆の方の手で額を抑え、フフフッと洩らしたくもない笑い声がもれてしまうドフラミンゴ。 「後で美味しく頂く事にするよ」 「え?! 何で! 今がいい。ドフィの喜ぶ顔が見たいの!」 「なら尚更今じゃない方がいいだろうよ」 それでもドフラミンゴがニコニコと笑って纒わり付く可愛いなまえを振り切れよう筈もなく、もはや時限爆弾にも近いそれを諦めたように一つ取り出すと、覚悟を決めて口に放り込んだ。 「ウッ………」 それでもこの何とも言えない味と、同時に鼻腔をついた形容し難い匂いを、その呻き声一つで抑えた事は十分褒めるに値すると思った。 「どうっ?どうっ??」 「これは……新しいな」 今ほど自分がサングラスキャラで良かったと思った事はない。 零れ落ちる事は何とか耐えたものの、滲み出す涙そのものは止めれなかったドフラミンゴは、サングラスをかけ直すフリをしてサッと雫を拭った。 「いつもいつもありがとななまえ」 「えっ? だってドフィはファミリー≠セもん!!ファミリーの喜ぶ顔が見たいと思うのは、同じファミリーなら当然の事でしょ?」 「…………」 富、権力、名誉。 父の天竜人落ちを許せず海賊として生き、海軍に追われながらもそれらを手に入れる事でのし上がってきたドフラミンゴではあったが、それでもドフラミンゴが求め、大切にし続けてきたのはファミリー≠フ存在だった。 血の繋がりなんてない。 ただドフラミンゴが声を掛け、ファミリー≠ニして共に過ごしてきただけ。 だがドフラミンゴが求め、望んでいたそれはまさしく今目の前にいるなまえのような考えを持った─── 「だからドフィにはいつだって笑っててほしくて、その為ならなまえは何だってするの!」 そう言って嬉しそうに笑うなまえ。 その笑顔と、言葉を受けて。 「フッ…… フフ…フッフッフッ!!」 この笑顔だけは何があっても、何を犠牲にしたとしても。 ─── 必ず守り抜くと決めた。 例えこの先何があろうとも俺は。 ファミリーを、なまえを守り続けると固く誓ったとある日の事だった。 「トラファルガー・ロー…」 ドレスローザ王国。 ドフラミンゴがファミリーを護るとの誓いを立てたあの日から月日は流れに流れ、現在のドフラミンゴはといえば一国の国王という地位までも欲しいままに、その裏で秘密裏に製造していた人造悪魔の実の成果も順調。……のはずだった。 そう、 今し方呟いた男の存在さえなければ、全て。 「トラファルガー・ロー??それって確か11人の超新星のうちの一人で、死の外科医とかって異名を持つ人の事?」 忌々しげにその名を呟くドフラミンゴの後ろからそう声をかけたのは、あの頃よりも遥かに大人の女性へと成長を遂げたなまえだった。 「そうだ。お前は知らないだろうが、ローはお前がファミリー入りする前までファミリーの一人だった奴だ」 軌道に乗っていた筈のその道が突如として断たれたのは、そのローがパンクハザードにある製造室を破壊し、製造者のシーザーも奪って交渉を持ち掛けて来たという事態からだった。 「そうなの?! それなのにそのなんとかローってヤツはバッファローとベビー5の頭と胴体をバラして、シーザーまで奪ってったの?!」 「そうだ」 「許せない…っ!!」 ファミリーにされた事に怒り、拳を握りこんで身体を震わせるなまえ。 ドフラミンゴはそんななまえに近付くと、彼女の長い髪をひと房取って口付けた。 「ローの奴はシーザーを返す代わりに、おれが七武海を降りる事を条件に出してきやがった」 「…っ! そんな事!! そんな事絶対にさせない!!」 「おれだってそんな条件を呑むつもりはねぇよ」 いきり立つなまえを抱き寄せ、宥めるように髪から首元へと唇を寄せるドフラミンゴ。 「んっ…」 子供だった筈のなまえの体。 それがいつの頃からか成人女性の滑らかな曲線を帯びる様になり、触り心地も、感触も。 そこら辺の女なんか目じゃないくらいの最高な女のそれとなった。 そして、 「あっ… ドフィそこっ……」 庭先ではべらせている女達の扱いとは違い、ドフラミンゴがこうしてまるで壊れ物を扱うかのように優しくなまえのその背を撫で上げるのは、彼の中での彼女の存在がそれよりも格段に上だからだ。 「シーザーの引き渡しを条件に海軍を焚き付け、だがおれの七武海脱退が誤報だと分かれば、アイツは確実におれを殺しにかかってくるだろうな」 「そ …んなのっ、!」 ドフラミンゴのその言葉になまえはキッと顔を上げると、両手でドフラミンゴの両頬を掴んで深く口付けた。 「絶対にさせない!!ドフィは必ず私達ドンキホーテファミリーが……私が必ず護ってみせるわ!!」 「オイオイ。いつの間にそんなデケェこと言うようになったんだ?可愛い可愛いなまえちゃんよ」 「…きゃっ!」 口付けを離してからも至近距離でそう続けてくるなまえの瞳をドフラミンゴもサングラス越しの瞳で強く見返しながら、なまえの胸の先端を服越しにピンッと弾いた。 「なっ!! 私は本気でドフィの事をっ、」 「お前はおれに護られてりゃいい」 ファミリーを想い、血の掟≠ネるものを取り決めてまでも大切にし続けてきたのは、ドフラミンゴ自身がそれらの存在を失いたくないからだ。 失いたくないからこそ、囲った。 そしてその中でも最も重要視して護りたいと願ったのは他でもない、なまえという存在だ。 「護られてなんかやらねぇ。」 なぁ、なまえ。 俺がこんな事を言ったらお前は笑うだろうよ。 それでも 「この問題が片付いたらなまえ、」 抱き締める腕に力を込め、柄にもなく今まで生きてきた中で一番キザで、だけども真剣な想いをドフラミンゴが口にすれば、なまえは大きな瞳をより一層大きく見開いた後、涙を流しながらも恥ずかしそうに笑って二つ返事で頷いた。 ─── それ、なの…に。 「なまえ!!!!」 麦わらの一味と同盟を組んで攻めてきたらしいローは、ドフラミンゴの予想を遥かに超えて追い込みをかけてきた。 …だがなまえは。 なまえだけは手放さずにいたつもりだった。 なのに、 「バカ野郎がッ……!!」 ドフラミンゴの足元で静かに横たわるなまえの身体。 今やその体に宿る命はもうなく、広がる血溜りの量からしてもそれは明らかだった。 「どうしておれの言う事を聞かなかった!!!なんでッ、!」 だが全ては自分の読みの甘さが招いた事。 ドフラミンゴの裏をかいて攻めようとしてきたロー達を止める為、なまえは手遅れになる前にそれを阻止しようと、ドフラミンゴが他のファミリーに指示を出している間にいなくなっていた。 そして、なまえのその働きのおかげで何人かのファミリーの命が救われたのもまた事実だった。 だが…… 「お前がいなきゃ意味ねェだろうが!!!!」 お気に入りの上着が汚れるのも構わず、ドフラミンゴは横たわるなまえの身体を抱き起こして呻いた。 「……あ?」 なまえを抱き起こした瞬間地に落ちる、キラリと光る銀色の何か。 「クソッ……!」 命尽きる最後のその時まで握り締めていたのだろう。 血溜りの中に落ちずともなまえの乾いた血がこびり付いたそれは一つの指輪で、そしてそれはつい数時間前にドフラミンゴが人生で初めてキザな台詞と共に送った物だった。 「冗談じゃねぇってんだよ!!クソッ!!」 僅かでも息があればチユチユの実の能力を持つマンシェリーの涙で治癒させる事が出来る。 たとえそれが一刻を争うほどの重傷だとしても、まだその身に宿る命の灯火さえ消えていなければ、 息さえあれば─── だがドフラミンゴの腕の中で力なく抱かれるなまえの体。 その体にはもう… Gone. ─── なぁ、嘘だろなまえ? これが終われば俺達は本当のファミリー≠ノなる筈だった。 声を掛けて引き入れたファミリーの形じゃなく、二人の間での血の繋がり≠持つファミリーも持つ筈だったろうが。 だから目開けろなまえ… 頼むからどこにも行くな。 何を犠牲にしても護ると誓った。 その笑顔を守り続けると誓ったのに、そのお前が犠牲になったら何の意味もねぇんだよ。 目開けろよなまえッ!!!! 2017.7.20 企画「 吝嗇家」 様提出. |