泣かないで



「船長!!コイツを助けてやって下さい!」

「! すぐにオペの準備をしろ。…チッ!こないだの輸血で血液のストックが今あまりねェ!今ある分だけで足りるかどうか…」

「可能性はほとんどないと思いますが、もし血液が合えばおれのを使って下さい!!コイツはおれを庇ってやられたんです…っ!!」




バタバタと駆け回る音、慌ただしく飛び交う言葉達。

そんな喧騒を頭の片隅で聞きながら私は意識を手放し、次に目が覚めた時には私の体には様々なチューブが繋がれていた。


「 ! …良かった!!目が覚めたのか」


呼ばれた方へと視線を向けてみればそこには、意識を失う前、私が庇ったはずの男の姿があった。


「…ここは?」

「ここはハートの海賊団の船の中で、君はこの海賊船の船長によって一命を取り留めたんだ」

「か、海賊船?!…っぅ!」

「まだ動いちゃダメだ!!」


“海賊船”という言葉に反応して私が慌てて体を起こそうとすると、それに気付いた男が慌てて立ち上がり、止めてきた。

私はその男の片腕に貼られた注射パッドに気付くと、ハッとする。


「それ…、」

「あぁ、これか? これは偶然にもおれの血液と君の血液型が同じだったから、輸血にはおれの血を使ってもらったんだ」


帽子を被っている為その表情はあまり分からないが、どうやら彼は苦笑しているらしい。


私の血を、この人が…?


「私の血はかなり珍しいタイプのもので…」

「それにはおれも驚いた。だからもう少しあげる事になってたら、おれの方もヤバかったんだ」


背後から奇襲をかけられそうになっていたこの男を反射的に飛び出して庇った時、私は彼の代わりに背中を大きく切りつけられ、その焼けるような痛みから驚いて振り向いたこの男の胸へと倒れ込んだ。

そして自分のものだろう飛び散った鮮血を見た瞬間、あぁ…私はきっとここで死ぬんだと確信して。

だって私のいる島には私と同じ血液の人間はいなくて、唯一同じだった母も三年前に亡くなっていたから、その致命的なまでの量の血液を目の当たりにした時、私はそう確信する以外他なかった。

それなのに、


「わた、私と同じ血液の人がいたなんて…!!」


しかもそれが無我夢中で庇ったどこの誰とも知れない男と一緒だなんていう訳だから、更に驚きだった。


「ちゃんと、いたんだ…っ!」

「え?」


肩を震わせて涙する少女に、ペンギンはどういう事だと首を傾げた。

確かに前に一度キャプテンからお前の血液は珍しい型だと言われ、その血液のストックは主にペンギンが提供していた。

そうすれば例えペンギンが輸血を必要とする怪我を負ったとしても対処出来るし、またその血液が必要となる患者を救う事も出来るようにとの理由からだった。

まぁ確かに今まで自分と同じ血液の患者と出会った事はないから、ペンギン自身そうか、おれの血の型は珍しいものなのかくらいにしか思っていなかった。

それが、


「私がいた島では母以外…私と同じ型の血を持つ人なんていなかった、からっ…」


ペンギン達海賊と違って海を渡る事もない者であれば確かにそれは貴重で、深刻な事なのかもしれない。


「だから私絶対にあの時死ぬんだって思って、もうダメだって思って…っ!」


ポロポロと涙する少女を見て、ペンギンは思わずその肩にそっと手をかけた。


ペンギンは船長であるローに全幅の信頼を置いているし、医者であるあの人の腕も確かだと思っている。

更には仲間であるクルー達の命を預かっている以上、クルー達の健康管理から怪我の処置、そしてペンギンのような珍しい血液型の血液は万が一に備えて常日頃からストックしてあったりとしている訳であるから、クルー達も皆戦闘となっても船長を信じて突っ込んで行く事が出来ているワケで。

けれど、島で唯一彼女だけしかその血を持つ者がいないとなると当然、彼女が怪我をした時に出来る対処は限られるし、血液のストックだってないに等しいだろう。

それなのに彼女は自分の危険も顧みず、身を呈して面識もないペンギンの事を庇ったのだ。

ペンギンが偶然彼女と同じ血液型でなければ間違いなく死んでいたというのに。

そしてもちろん彼女だってそれを知っていたはずであるというのに。


「君は…優しいんだな」


それでも尚、飛び出して助けようとしてくれた彼女に。

きっと自分よりも年下で、そして自分よりも小さな彼女の体をペンギンは優しく抱き締めると、彼女が泣き止むまでの間傷に障らないよう、優しくその背を撫で続けてやった。