選んだ道



「え、えっと…」


話が見えずに更にオロオロするなまえに視線を移すと、ペンギンはあーと言って頭を掻いた。


「おれはお世辞にも女に慣れてるとは言えないんだが…なまえ」

「は、はいっ」


再び自分のいるベットの隣へと近付いてきたペンギンに気づき、スッと背中を正して返事を返すなまえ。


「おれ達はお前の母親を殺した奴らと同じ、“海賊”だ」

「…っ」


ペンギンの言葉を聞き、きゅっと唇を噛み締めるなまえ。

ペンギンは彼女を怖がらせないよう出来るだけ優しい声を意識しながらなまえの頭を撫でると、その顔を自分の方へと向けさせた。


「海賊は欲しいものの為なら手段を選ばず、時に相手の命をも奪う。」


ペンギンの言葉にまたじわりとなまえの瞳に涙が滲んだ。
それを見て微かに胸が傷んだが、ペンギンは自身が決めた覚悟を彼女に伝えるべく、言葉を続けて。


「それでもおれ達は決して“仲間”を傷付けたり、傷付けさせたりはしない。守ると決めたモノは全力で守るし、さっきのキャプテンだっておれ達クルーの命を守る為、常に前線で戦ってくれてるんだ」


ペンギンはローほど海賊そのものな考えは持ち合わせてないし、『力ずく』で何かを奪えるほど冷酷な性格でもない。

それでも自身の命を投げ打ってでも助けてくれた相手を、この少女を。

事情を知り、そんな彼女をここで船から降ろして見捨てられる程、ペンギンは非情ではなかった。

それでもこの身に背負う“海賊旗”の覚悟ならきちんとあるから。持ち合わせているから。

だからこそペンギンは先程ローに頭を下げ、ペンギンが決めた覚悟を許してくれたローに感謝したのだ。


「えっと…ペンギン、さん?」


沈黙したペンギンに戸惑うような視線を向けてきたなまえの瞳を、ペンギンは真っ直ぐに見つめた。


「おれ達と一緒に来ないか?」

「!」


なまえからしたら自分の母親を殺されたのと同じ“海賊”であるペンギン達など、受け入れ難い存在である事だろう。

だが、もし。彼女が共に来ると決めたのであれば。

そう決めてくれたならば自分はーー


「…っ、いの?」

「ん?」


聞こえるか聞こえないかの小さな声。
それは紛れもなく目の前にいるなまえから発せられたであろうもので。

ペンギンが耳を澄ませれば、なまえは戸惑いながら、涙で声を詰まらせながらも必死にペンギンの方を見て、


「私を、船に…一緒にっいて、くれるの…? いても、いいの…?」

「誘いをかけてるのはおれの方だぞ?」


涙するなまえに苦笑しながらペンギンはその頭を優しく引き寄せると、ポンポンとあやすように優しく撫でてやった。


「この船に乗っている限り、少なくともなまえは安全だ。医者としてのキャプテンの腕は確かだし、おれがいる限りなまえが輸血を必要とする怪我を負ったとしても、今回みたく助けてやれる」

「そんな、ことっ……うーーっ!」


言われたことなどなかったのだろう。

島の奥深くでひっそりと暮らしていたと話していたなまえは恐らく、必要とされるどころか敬遠されていた。

母が死んでからもその家に一人で暮らし、誰とも話さない環境下にいたであろう彼女はどれだけ寂しい思いを抱え、そして今日まで生きていた事だろう。

本当の彼女はこんなにも素直で、優しいというのに。


「わた、わた…しっ、」


ペンギンはむしろ、彼女が言い終わるまで黙って待つ自身に不思議な感覚を覚えた。

何故なら抱き締めるこの小さな体に少しも嫌な気がしないし、むしろ守ってやりたいとさえ思ってしまうのだから。


「一緒にっ、…行きたいっ」

「それなら決まりだな」


足でまといになるかもしれないとか、女のクルーが一人でもいれば真っ先にそいつから狙われる弱点となるとか、そういった不安は不思議と湧いてこなかった。

ただ俺はコイツを守ってやりたい、と。

守ってやるには傍に置いておいてやらないといけないのだと思い、ペンギンはフッと笑みを零したのだった。