悲しい事があったとき、辛い事があったとき、きみはいつも僕に話を聞いてって頼ってきた。
泣きそうな顔をして助けてって言ってきた。
その度に僕はきみの気が済むまで、きみの心が晴れるまで何だってしてあげた。
いつもきみの傍にいた。
でもきみが僕の傍にいてくれるのはほんの短い間だけ。きみの悩みの種が吹き飛ぶまで。
きみが笑うときに傍にいられるのはいつだって僕じゃなかった。

損な役回りだな、って自分でも思ってた。
僕がいなくなったら、きみは誰に頼るんだろう。
だから僕はきみの「特別」にだってなれないんだよ。
笑ったきみの傍にはいられないんだよ。

小学生の頃から続くこの関係は大学生になった今も続いてる。
高校までは学校も同じで。
大学は離れてしまったけれど
なにかのときにきみから電話が来て
もちろん泣きそうな声で僕に助けてって言うんだ。
決して近くはない距離なのに僕はなんとか都合をつけてきみに会いに行く。
僕がきみにできることってそれだけだから。

だけどあの日は違って、きみは泣きそうな声でもなくて助けてとも言わなくて
ただ「会いたい」って電話をくれた。
忘れるはずがない、大学生1年生の夏。

「わたしのことをいちばん解ってるのはあなただって気付いた。たくさん助けてくれてありがとう。
だから………」

きみが何を言おうとしてるのか、もうわかったから、僕は先に言わせてもらった。

「好きだ。付き合って、くれるよね……?」

きみは照れ臭そうに頷いた。
笑ったきみの隣にはいれないって、そんなことはなかったんだ。
そう思った。幸せだった。

でも僕がきみの隣にいれたのは大学3年の冬までだったね。
やっぱり恋人じゃなくて友達が良いってきみは悲しそうに笑って。
きみを受け止めるばかりで自分の意志を出さない僕では、きみの隣にはいれなかったみたいだ。

それからきみが僕に頼ることは全くなくなった。


無事に就職をして、職場にも少しずつ慣れてきた頃ひさびさにきみが連絡をくれた。

元気だった?とか仕事はどう?とかそんな他愛もない会話をして。
最後にきみは

「結婚式に来てほしい」

明るい声でそう言った。


悲しい事があったとき、辛い事があったとき、
きみの全部を受け止めて
だけどきみと結ばれたのは一瞬で
きみはいつのまにか遠いところへ行ってしまったんだね。

「結婚おめでとう」

電話の向こうで幸せそうなきみと、
きみに何も悟られないようにこみあげるものを抑える僕。

あーあ、こうなることくらいわかっていたのになぁ。


便利なジェントルマンでしょう(それでもきみが好きだった)




便利なジェントルマンでしょう

title:)Rachel
updated:)2015/09/03
reupdated:)2016/03/13
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