今年も猛暑だそうだ。
異常気象も毎年続けばそれが異常だということも、忘れてしまう。
夏ってこんなもんだよな、って。
猛暑だろうと、そうでなかろうと、暑いものは暑い。
異常気象だとかそんなものは関係ないのだ。

「アイスでも食べたいね」

隣で
わたしの歩幅に合わせて歩く君に話しかける。

「それなら、アイス食べてから帰ろうか」
「いいね」

わたしはコンビニに行くのだと勝手に思っていた。
たしかコンビニはもう少し先の、曲がり角にあったはずだ。
でも君はコンビニより少し手前で足を止めた。
「あれっコンビニはもう少し向こうじゃない?」
「コンビニもいいけどせっかくだからここでアイス買おうと思って」

「ここ……」
「うん。懐かしいよな。子供の頃よく来たよな」

幼馴染みのわたしたちは、この町で育って、
大きくなって、それぞれの道に進んだけど、いろいろあってまた同じ場所に帰ってきたのだった。
小さい頃よく来た駄菓子屋があの頃より少し寂れていたけれど、あの頃のままそこにあった。

「覚えてる?」
「えっ、なにを?」
「俺がいっつも当たりのアイスだったこと」

そういえば。
いつもいつも君の食べたアイスは当たりで、当たったアイスをいつもいつもわたしにくれた。

「そうだったね」
「コンビニやめていい?」
「うん」
「俺は当たりしか買わないから安心して」

きみはニッとはにかんで言った。

店の中に入ると、あの頃の駄菓子屋のおじさんとおばさんは少し年をとっていて
おじいさんとおばあさんになっていたけれど
あの頃のまま温かく迎えてくれた。

「懐かしいわねぇ。もうふたりともずっとこっちにいるの?」
「ええ」「はい」

声が重なった。
きみとわたしは思わず顔を見合わせた。

「あら、昔と変わらず仲が良いのねぇ」

すると隣できみは少し照れくさそうに言った。

「僕たち、結婚するんです」

「まあ!素敵ね。おめでとう。お父さん、聞きました?」
「何だって?」
「結婚するんですって、このふたり」
「おっ!いいねぇ!幸せにな!」

「ありがとうございます」

改めて他人に報告して、祝福されると照れ臭い。でも幸せだった。2人の思い出がたくさん詰まったこの街で、また思い出を作っていける。

「あ、そうだ、ふたりは何を買いに来たんだっけ?」
「アイスです。くじがついたやつ」
「ああ。そうだった」

お金を払って、店の一角にある椅子にふたりで腰掛けた。

「俺が食べるよ、これ」
「当たりじゃなかったら?」
「大丈夫、当たりだから」
「さあ、どうでしょう」

そんなわたしたちを駄菓子屋のおじさん、おばさんは微笑ましく見守っていた。


「……!当たりじゃない」

君はちょっと慌てていた。

「人生初めてだよ……この駄菓子屋のアイスで当たりじゃないのは」
「もう一個買えばいいじゃん」
「なんか悔しい」
「そういうこともあるんだよ」

わたしは立ち上がってもう一本アイスを買ってきた。
悔しがるきみの横で食べ進める。

「あれっ?……当たりだ!」
「ほんとだ……!」
「どうする?どっちが食べる?」

そんなことを言っていると、おばさんがアイスをふたつ差し出した。

「ふたり分あげるわ。結婚おめでとう」
「いいんですか?」
「もちろん」
「わあ、ありがとうございます!」
「ふふふ」

今度はふたり一緒にアイスを食べた。
そしてなんとふたりとも当たりだった。

「おばさん、この当たりくじ、いつまで有効?」
「いつまでも有効よ。期限はないわ」
「じゃあ、また今度来ます」
「ええ」
「ごちそうさまでした」

そしてわたしたちは駄菓子屋をあとにした。
駄菓子屋を出ると少し揉めているらしい子供がふたり。

「今日は無理だよ!僕、まだお小遣いもらってないんだもん!」
「さっきアイス買ってくれるって約束したのに、お兄ちゃんの嘘つきー!」
「しょうがないじゃんか!」

どうやら兄妹らしい。

「君たち、アイスが買いたいの?」
「えっ?」
「僕たち今ふたりで食べたんだけどふたりとも当たりくじだったんだ。だから、アイスの棒あげる。これでアイスと交換できるよ」
「いいの?」
「もちろん」
「ありがとう!!」

途端に兄妹は笑顔になった。
その笑顔を見てわたしたちも笑顔になった。

「帰ろうか」
「うん」

少し陽が傾き始めていた。
相変わらず暑いけれど、今日は良い日だった。
あの頃と変わらない場所であの頃から一緒にいた人と懐かしさを共有できたことが、単純に嬉しかった。
この人を選んで、
この人がわたしを選んでくれて良かったと思えた。

セミの鳴き声が聞こえる。
どこかで風鈴の音がする。
かき氷の看板、冷やしシャンプーの看板。
穏やかな町並み。

昔と変わっていないけれど
今は隣に夫がいる。

夏の日差し、思い出の詰まった町、駄菓子屋、当たりくじのアイス。

またたくさん増えていくであろう思い出。

素敵な夏がまたここに。






ノスタルジックサマー

updated:)2015/08/04
reupdated:)2016/03/14
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