ふと目を閉じて
わたしのなかを巡る、たくさんの思い出たち。

入学式が昨日のことのようだ、とよく言うけれど
確かに、昨日のこととまでは言わなくともつい最近のことのようだ。

偶然出会った人たち。景色。時間。
今思えばどれも愛着がわくし、懐かしい。

あの時間、あの場所、あの先生、あの先輩、あの後輩、あの子、あの人、あの人。

わたしの高校生活を彩ってくれたひと、もの。
綺麗な彩りとは限らないけれど
それでもわたしの思い出には代わりない。

楽しかった、苦しかった、面白かった、泣きたかった、満喫した、悩んだ、
大好きだった、大嫌いだった、
すべてのものがもう終わる。

たった3年間の中でわたしは随分たくさんの人に出会ったし、経験した。

もっと話したかったな、もっと関わりたかったな、
もっと時間があったらな……。

もう少し子供らしく素直なら良かったことも
もう少し大人らしく受け止められたら良かったことも
思い返せば後悔もあるけれど、
それもわたしの大事な時間に変わりなくて。

卒業してしまっても
関わり続けられる人がどれくらいいるんだろうと思うと寂しくて。

同学年にかなりの人数がいるのに
きっとこれからのわたしの人生に彩りを加えてくれるのはほんの一部。

あの人も、そうだろう。

わたしの中のあの人は今でもわたしの心を動かすけれど
あの人の中のわたしは今はもうあの人の心を動かさないだろう。

随分前のことだから。

それでも別に構わない。
わたしも別に特別な感情があるわけじゃなくて
ただ、あの人と特別な時間が共有できたことがとても懐かしくて。

さよならをされた直後は死ぬほど辛かったけれど
時間が経った今はもう慣れてきた。
あの人がわたしを見ないことにも、わたしを何とも思わないことにも。

***


卒業式が終わって
みんなで写真を撮り合った。
できるだけたくさんの人と。

ひと通り撮り合ってわたしは何人かの友達とご飯を食べに行くことにした。

周りにはまだ写真を撮り合うみんながいた。
その中に、あの人も。

「本当に写真撮らなくていいの?」

わたしの気持ちを知る一人の友達がおずおずと聞いてきた。

わたしは笑って首を横に振った。

「いいの」
「そう?じゃあ、行こうか」

あの人が、最後くらいわたしのことを思い出してくれるかなって
少しだけ、振り返りたかったけど、やめた。

あの人との思い出は此処に置いていこう。

本当に
さようなら
をしなくちゃ。

わたしのなかのあの人と。


振り返らずに友達の隣を歩いて
わたしはそのまま校門の前に来た。

「ねぇここでもう一回写真撮ろうよ」

友達の一人が言い出し校門の前で写真を撮ることにした。

撮り終えて、かばんを肩にかけた。
さあ、さようならだ。
校門を出たらさようなら。

その時、隣を通り過ぎて行く集団。

あの人と一瞬目があった。

すぐ逸らされた。

悲しくはなかった。ちょっとだけ、寂しいけど。


友達と校門を出た。

もうわたしのなかのあの人はいない。


バイバイ。



たぶん遠い距離

title:)Rachel
updated:)2015/02/28
reupdated:)2016/03/14
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