所謂「細かいこと」が僕にはとても気になる。
ある人に言わせれば「神経質」で、
ある人に言わせれば「頑固」らしい。
そして、結局僕は「堅物」だと言われる。
生まれてこの方そんなことばかり言われてきた。
それを嫌うやつも、逆にそれが面白いといって好いてくるやつも同じことを言う。
気にはしない。
いや、気にしているからこうやって気にしないように気を張っている。
弱みを絶対に見せたくない。

「無愛想だよね、金井くん」

最近サークルで知り合った佐藤美佳に唐突に言われた。

「どこがだよ」
「どっから見ても無愛想」

そう言う佐藤の顔は悪戯好きの子供みたいに無邪気だった。

「でもそれは個人の性格なんだからしょうがないだろ」
「でも本当は気にしてるでしょ、金井くん」

図星だ。
悟られたくなくて佐藤から視線を自然に逸らした。

「考え過ぎなんだって。もっと気楽に生きたらいいんだよ」
「気楽にって」
「考え過ぎて、当たり前のこと見落としてるよ」

心理学者のような偉そうなことを言ってるくせに佐藤は片手にマシュマロの袋を抱え、
ときどきぽいっと口に入れる。
もっと真面目に言えよな。

「金井くん、あたしのこと、テキトウなやつだとおもってるでしょ」

「テキトウっていうか……さっぱりしてるやつだと思ってる。こだわりとか、ないのか」
「あるよ。わたしなりのこだわり。
紅茶に入れるお砂糖はティースプーン1杯半だけどコーヒーは2杯じゃないと微妙だし
服とか靴とかお気に入りのお店でしか買わないし
人と関わるときだって人間歪んでるやつは嫌いだしひねくれたやつも嫌いだし媚びるやつも嫌い」

きっと僕が驚いた顔をしていたのだろう。
佐藤はまた悪戯っ子のように笑った。

「でもね、こだわりは自分のかなで消化しなきゃ。他人とやってけないよ」

また、マシュマロの袋をガサゴソしながら佐藤は言う。

「それに自分がどれだけ幸せかわかってる?
この世に生を受けて色んな人に出会えてやりたいように生きられる。
美味しいものだっていっぱいあるし」

佐藤があまりにもドヤ顔でマシュマロの袋をガサゴソしているから
思わず吹き出した。

「何よ」
「だってお前、すっげぇドヤ顔」
「うそ!」
「ほんと」
「金井くんサイテー」
「なんでだよ」
「もういい知らない。せっかく友達になってあげようと思ったのに」

佐藤はマシュマロの袋をそそくさとバッグにしまい、くるりと向きを変え、立ち去ろうとした。

「おいおい待てよ」
「何よ?」
「悪かったよ。でも、もう友達だと思ってたんだけど、僕の一方通行?」
「残念ながら両方通行」
「両方通行ってなんだよ」

おかしくて2人で笑った。
笑いながら、
今までの僕が寂しそうに遠くで見守っているような気がした。

「オクラって普通茹でるじゃん?」
「そうだね」
「生で食ってもうまいって知ってた?」
「ごめん、金井くん。言いたいことよくわからない」
「いや、だから素材の味最高って……じゃなくて!
食わず嫌いしてたんだなぁって。もっとガードゆるめて人と素直に関わればよかったなぁっていう例え」
「わかりにくい」

「神経質」で「頑固」で「堅物」で「無愛想」な僕。
そんな僕を変えようとマシュマロの袋をガサゴソしながらドヤ顔で語る佐藤のアイロン失敗した癖毛が好きだと言ったらどん引きされた。

「素直に好きって言ってよ、わかりにくい」

佐藤は少し照れながら口を尖らせた。




流れるオクラ

title:)Rachel
updated:)2014/11/08
reupdated:)2016/03/14
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