Bowl and milk-jug


これまで暮らしてきたこの家を、明日去る。
違う家に嫁いでいく。

玄関から、居間、自分の使っていた部屋まで、全てが不思議なくらい愛おしく思える。

もちろん、いつでも帰ってこれるけれど、
わたしがこれから心地よく帰る場所にするのは彼の家。

彼とも、彼の家族とも、良い関係を築けているからきっと大丈夫だろう。
不安もない。

ただ、この家を去ることに実感が湧かずにいる。そして、明日から帰る家ではないことがまだ信じられないのだ。
思い出がたくさんたくさん詰まったこの家。

張り替える時期を逃したままの色褪せた壁紙が、まるでわたしに別れの挨拶でもしているようだ。

家中をゆっくりと、歩く。
どの場所からの眺めも目に焼き付けたい。
まだわたしの帰る場所であるうちに。

ガランとした自分の部屋だけは、やけにリアルに自分の嫁入りを感じさせた。
嫁入りは嫌なことでは全くない。
幸せなことだ。
彼のもとに行けるのなら、幸せなのだ。

ただ少しだけこの家を去る寂しさが募ってきてしまった。

幼い頃使っていた食器さえ愛おしい。
幼い頃はお気に入りの食器しか使わず、両親を困らせていた。
その食器は、わたしの我儘な思い出が詰まったまま、母が保管している。

持っていくか聞かれたが、やめた。

彼の家でまた、ひとつずつ思い出を作っていく。
新しい思い出を幾つも重ねて、またいつか、こんなふうに愛おしいと思う気持ちが生まれるのだろう。

最後の夕食。
母の料理が盛られた器は、わたしのお気に入りの器だった。


今までありがとう。
産んでくれて、育ててくれて、どうもありがとう。

使い込まれたお気に入りの食器で、母の料理を噛み締めるように、ゆっくりと口に運んだ。




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Bowl and milk
無機質なミルク瓶と、ボウルなのに何処かあたたかさを感じる絵だなあと思いました。でもやはりどこか寂しさもある感じがしました。

2017/03/13

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