もう怖くない


初めて見たあの人は、強そうで、怖そうで、絶対に関わりたくないだなんて思わせる雰囲気を纏っていた。
このヒーロー科の濃いメンバーの中で、私は目立たない方で、きっと彼の中では私はモブでしかなく、クラスメイトだからといって関わることは無いだろうと思っていた。


「君雄英の子?かわいいじゃん、今から帰るとこ?」

モブだからナンパなんてものにひっかかることも無いだろうと思っていたのに、声をかけられた。ちょっと怖そうな男の人たち3人に囲まれて、ビビってしまう。個性を使って逃げてもいいけど、この人たちを傷つけでもしたら、先生に怒られる。

「聞いてんの?急いでないならお兄さんたちと遊ぼうよ」

大きな手で頭を撫でられぞわりと寒気がする。そのまま肩に手が乗って、引き寄せられた。

「やっ……」
「反応かわいー!ピュアでいいねぇ!」

怖い。このまま好き勝手されそうで、怖い。少しだけ、バレない程度に力を使って逃げよう。それならきっと先生だって、許してくれるでしょ。
心を落ち着かせるように深呼吸すると、男たちの香水でくらっとする。今度こそ、と意を決して男たちを見上げれば、背後から別の苦手な人の声が聞こえてきた。

「テメーら道端でペチャクチャしゃべってんじゃねーぞ。モブはモブらしく隅っこで息してろや」
「あぁ?!誰に口聞いてんだクソガキ」
「テメーこそ何様のつもりだ?クソザコが俺の道邪魔してんじゃねーよ!!」

彼は年上の男たちにもビビることは無く、イラつきながら両手を細かく爆発させていた。怒鳴りながら手の内で爆音を鳴らす姿を見て、人としてのやばさを感じたのか男たちは捨て台詞を吐きながら逃げていった。


「おいブス!!」
「へっ」
「テメェもあんなザコ共に怖じ気付いてんじゃねぇ!!自分の身も守れねぇやつが他人を守れると思うなよ!!」

爆豪くんは、一体何に大して怒っているんだ。絡んできたあの人たちじゃなくて、私に怒ってるの?

「ごめん。私の代わりに、私のこと守ってくれてありがとう」
「守ってねぇよ自惚れんな!!道端で邪魔なゴミどかしただけだわ!!」
「それでも、嬉しい」
「勝手に喜んでんなボケ!!」

ただ怖いだけだと思っていた爆豪くんは、思ったよりも怖くなかった。顔も声も態度も確かに怖いけど、ヒーローとしての一面は、確かに優しさを持っていた。

「爆豪くん、」
「あぁ!?」
「ほんとに、ありがと」
「うっせ!話しかけんな!黙って歩け!」

そう言われたら黙って歩くしかなかったのだが、歩きだしたら爆豪くんが私の隣に並んで歩きだした。何事かと思ってそのまま黙って歩いていたけど、爆豪くんは何も言わずに歩き続ける。どうしよう。

「……爆豪くん、」
「何だよブス」

あぁひどい。口を開けば暴言ばかりで、爆豪くんの口から優しい言葉を聞いたことが無い。

「送ってくれてありがと。私の家もうすぐそこだから大丈夫だよ」
「あぁ!?勘違いしてんなよ、俺はこの道から帰りたかっただけでテメェ送るつもりなんか無かったわ!」
「…そっか。ついででも何でもいいよ、ここまで来てくれて心強かった。また明日ね、ばいばい」
「……チッ」

素直じゃない爆豪くんは盛大に舌打ちをして、そのまま私の家を素通りして去っていった。どんな遠回りをして帰宅するつもりなのか知らないけれど、ここまで来てくれたことは本当に爆豪くんの優しさだと思う。
少しだけ、爆豪くんのことを好きになれた。