練習の成果

※原作全て読み終わった人向け
 霊王護神大戦後の捏造





大好きな人がいた。
あいにくお付き合いはしていなかったけど、僕は彼女のことを本気で好きだったし、大切な人だと思っていた。「イヅルくん」と呼んで笑ってくれる太陽のような彼女のことが、誰よりも好きで、君のためなら死ねると、本気で思っていた。

「イヅルくん…なんで?どうしたの、そのかっこ…」
「…優さんこそ、ぼろぼろじゃないですか」

僕は一度死んだ。敵の一撃に、無様にも殺された。じゃあなんで意識があるのかって、そんなの、僕が聞きたい。気が付いたら、屍のまま動けるようになっていたんだ。
最初に僕が殺されたとき、もう戦うことも、この手で優さんに触れることも、護ることもできないんだと、死に際にそう思った。だから、例えこんな不完全な体でも、もう一度大切な人のために戦士となれるなら、気にならなかった。

「それ、大丈夫…なの」

優さんは泣きそうな顔で僕を見上げる。
大丈夫だよ、君のためなら、こんな醜い姿でも戦ってみせるさ。

「…イヅルくん」

僕は君を護るために、甦ったんだよ。だから君がこの戦いで死なずに生き残ってくれて、本当に嬉しいよ。でもごめん。黒崎一護の方の戦いも、ケリがついたみたいなんだ。だからもう、僕の役目は終わってしまった。僕が無様な姿で生き続ける意味は、無くなってしまった。

「…おかえり。寂しかったよ」

ごめんなさい。謝るから、泣きながらそんな優しいことを言わないでくれ。僕まで泣きたくなるじゃないか。僕だって寂しいよ、胸にぽっかりと穴が空いたみたいに。

「ねぇ、」
「ごめんなさい」

君と一緒に居たかった。落ち着いたら好きだと伝えて、あわよくば君と甘い時間を過ごしてみたかった。僕の手で、君を幸せにしたかった。
全部、僕が悪いんだ。殺された僕が悪い。寂しいのも辛いのも、全部僕が悪い。だから、僕を許さないで欲しい。恨んでいいから、ずっと僕を覚えていて欲しい。君の心から、消さないで欲しい。

「…さようなら」

死ぬ前に、君の顔が見れてよかったよ。おかえりと言ってもらえて、嬉しかったよ。ごめんね、帰れなくて。ごめんね、君の前に再び姿を現してしまって。ごめんね、死別の悲しみを、二度も味あわせることになってしまって。

「…さよならって、うまく言えたかな」

何も言わずに居なくなるよりは、よかったはずだよね。幸せになってとか、気の効いたことを言えばよかったかな。

「永く付き合わせてしまったね。…逝こうか、侘助」

涅隊長には怒られそうだけど、僕はもう、これ以上働かされたら辛くて死んでしまいそうなんだ。だから今のうちに、この世から辞退させてもらうよ。

「…さようなら」

来世でまた、貴女に会えますように。