私だけの場所

「弓親、」

今日もあの人は、縁側に座って庭を眺めている。あの人の手入れする庭には色鮮やかな花が咲いていて、こういうのに興味を持たない私でも綺麗だと感じた。

「お茶とか、何か飲む?」
「うん、お願い」

私は今日も二人分のお茶をいれてきた。ただボーっとする時間が大好きだったから、最近はいつも弓親の隣で庭を眺めていた。

「ねぇ優」

いつもはけっこう無言の時間が多いのに、今日は弓親から話しかけてきた。

「何」
「僕と二人で庭見てるだけで、楽しい?つまらなくないのかい?」
「つまらなかったら、毎日来たりしない」
「そう」

弓親は私がいれたお茶を飲む。美味しい、と呟いてくれたことですごく嬉しくなる。

「…弓親」
「ん?」
「明日も、また来ていい?」

弓親は一瞬、キョトンとした顔を見せた。

「良いよ」

そう言って、優しく笑ってくれた。

「じゃあ、明日は、お菓子でも持ってくるね」
「うん。楽しみに待ってるよ」
「…私、迷惑になってない?」
「迷惑だったら追い返してるさ」

それは良かった。弓親は優しいから、私を追い返せないのかもしれない、と思っていたから。

「迷惑なんかじゃないし、むしろ、嬉しいくらいだよ」
「…本当?」
「もちろん。だから…」

弓親の綺麗な手が私の頭に乗せられた。

「僕の隣は、優だけのものにしてあげるよ」

その言葉で私はすごく嬉しくなって、胸が高鳴った。

「だからさ、いつでも僕に会いに来てよ」
「…毎日でも?」
「うん」
「夜中でも?」
「うん。……いや、それは女の子としてどうなの?」
「…」

しくじった。でも、弓親はいつでも良いって言ってくれた。嬉しい。

「…いつでも、とかじゃなくて、ずっと一緒に居たいって言ったら…わがままかな」
「…優が良いなら良いよ。僕も、優とずっと一緒に居たいしね」

弓親は優しく微笑んで私のことを抱き締めた。どきどきしてるのは自分だけかと思っていたけど、くっついたことで弓親もどきどきしてることがわかった。

「弓、親…」
「しばらく…このままでいてもいい?」
「…うん、いいよ」

恐る恐る弓親の背中に手を回してみれば、弓親は更にきつく私を抱き締めた。

「…弓親」
「ん」
「私…、弓親と居る時間がすごく幸せだよ」
「…僕も、…同じ事、考えてた」

弓親は消え入りそうな声で言うから、顔を上げて弓親の顔を見てみた。

「…弓親でも、そんな顔するんだ」

いつもの余裕は消え去って、透き通るような白い肌を赤く染めていた。

「優のせい」
「…私の?」
「優が、嬉しいこと言うから」

弓親の赤くなった頬に触れてみる。

「…僕をこんなふうにした責任、とってよね」
「そんなの、どうやって…」
「こうやって」

ゆっくりと弓親の綺麗な顔が近づいてきて、一瞬だけ唇が触れた。顔に熱が集まってくるのがわかった。

「…優も顔赤くなった」
「ゆ…弓親の、せいでしょ」
「これでおあいこだね」

弓親は意地悪く微笑んだ。