お子さま

「ただいま弓親!」

よく僕のところに遊びに来る女の子が、今日も擦り傷を作ってやって来た。遊びに来る頻度が高すぎて最近は、挨拶がおはようとかこんにちはじゃなくて、ただいまになってきた。

「おかえり。また遊んで怪我してきたの?」
「遊んでないよ!今日はね、人助けしてきた!虚いっぱい倒してきたんだよ」

褒めてくれと言わんばかりににこにこしながらなついてくる。そして撫でて欲しそうに頭を突き出してくる。

「えらいえらい」

お望み通りに頭を撫でてやる。そしたら優は満足げに笑った。

「けど、顔にまで怪我してくるのは関心しないなぁ」
「なんで?治るからへーき!」
「よくないよ。痕でも残ったらどうするのさ」

優の頬に手を当てて血の滲んでいる傷をなぞる。優は痛そうに少しだけ顔を歪めた。

「痛いから触んないでよぉ」
「手当てするからおいで」
「いやー。消毒痛いもん」
「だめ。本当に傷痕残っちゃうよ」

無理やりにでも消毒してやろうと、腕を掴んで引っ張った。けど優は反抗してその場に踏みとどまろうとした。

「べつに痕が残っても困らないもん!痛いのいや!」
「顔に傷なんてあったら誰もお嫁にもらってくれないよ。いいの?」

子供っぽい優にはこのぐらいの脅しが丁度いいかな、と思って言ってみた。

「うー…」

予想通り、優にこの脅しは利いたみたいだ。

「だから、ちゃんと消毒して」
「でも弓親は、私の顔に傷くらいあったってお嫁さんにしてくれるでしょ?」
「へ?」

優はまるで当たり前のことを言っているような顔をしてきた。

「だから手当てしなくてもいいの!」
「え、ちょ、良くないって」
「なんで?」
「いや、僕もお嫁にもらうなら傷の無い子の方がいいし」

そう言ったら優は目をぱちくりさせた。

「傷無かったらお嫁さんにしてくれるの!やったぁ!」
「そういう訳でも無いから!」
「えぇぇ!」

優はガッカリした顔をする。そんなに残念そうな顔をされても困る。僕は今のところ嫁を貰うつもりはない。

「弓親、私がお嫁さんじゃいや?」
「いやでは、ないかもしれないけど…」
「私は、弓親がお婿さんじゃなきゃいや」
「!」

と、照れるようなことを言われた。子供の戯言にどきっとするなんて、どうかしている。

「弓親が私のことお嫁さんにしてくれる、って言うなら怪我ちゃんと治す」
「…」

別に優をお嫁にしたいとか思ったことはない。だから無理して治してもらうことはないけど、優に傷があるのはいやだ。どうにかして治させたい。優のことなんかどうでもいいからほっとけばいいのに。考えれば考えるほどどうしたらいいかわからなくなってくる。

「私は、弓親のお嫁さんになりたいな」

珍しく照れながら笑ってきた。そんな優にきゅんとして、僕も珍しく困らされた。

「…しょうがないね」

こんな子供みたいな相手に顔が熱くなるなんて、参ったよ。

「ちゃんと消毒して、これからも傷痕が残らないようにしてたら、お嫁さんにしてあげてもいいかもね」

優はぱぁっと表情を明るくさせた。

「じゃあ私、ずっと弓親と居たいから十一番隊はいる!」
「だめだよ。そんなことしたら怪我が増えるでしょ」
「大丈夫だよ!怪我しないように、弓親が守ってくれるもん」

満面の笑みでそう言ってきた。いちいち予想外なこと言ってくるんだから。

「でもダメ」
「なんで?守ってくれないの?」
「そうじゃない。優は僕が守る。けど、男ばっかのところに入ってほしくないんだよ」
「…なんで?」
「妬いちゃうからに決まってるだろ」

照れくさくなって顔を見られたくなくなったから、優を抱き寄せて顔が見れないようにした。

「わかったら、傷の手当てするよ」
「…やだ」
「…ふぅん?お嫁さんにしてほしくないの?」
「違う!ただ、まだこのままがいいの!」

優は僕の背中に手を回して力強く抱きついてきた。可愛いけど、困ったな。こんなとこ誰かに見られたら恥ずかしい。ふと視線を庭の方に向けると、遠くから僕らを見ている一角やその他の数名の死神がいた。

「…まぁいいか」

見せつけてやろうと思って、僕は優を優しく抱き締めた。

「いいって言うまで、離しちゃいやだよ」
「はいはい」