お嫁さん

「だーれだ?」

縁側でお茶を飲んでいたら、背後から誰かに目を隠された。誰か、と問われても僕にこんなことするのは一人しか思い付かない。

「優でしょ」
「正解!」

優はその手を外して抱きついてくる。少し寒く感じていた背中は、温かくなった。

「優温かいね」
「うん!今ね、やちるちゃんと遊んできたから!」
「そっか」

僕はなんでこんな子供みたいな優のことが好きなんだろう。どこが好きか、と聞かれたら答えられる自信が無い。

「前行っていい?」

優は僕の前に回り込んできて、僕に向き合うようにして足の上に跨がって座ってきた。さすがに距離が近くて緊張した。

「ちゅーしよっか」
「何いきなり、こんなとこで」
「私は大好きな弓親といつでもどこでもちゅーしたいの」

だめ?と、首を傾げて聞いてくる。僕も大好きな優とキスくらいしたいけどさ…。誰かに見られたら恥ずかしくて死ぬ自信がある。

「弓親」

甘えた声を出されて、一回くらい良いかと思って唇を重ねた。けれど優はなかなか離れてくれなくて、それはだんだん深くなっていった。いつもと違う優に驚いて、肩を押して離れさせた。

「優?」

見ると、優は泣きそうな顔をしていた。誰かと何かあったのか。それとも僕が何か悪いことをしてしまったのか。

「どうしたの」

優の柔らかな頬に手を当てる。

「弓親…、私のこと、好き?」
「当たり前じゃないか。違ったらこんなに優と一緒に居ないよ」
「でも…でもね、弓親さ、僕もだよ、とか言うだけで、好きだってちゃんと言ってくれたこと、まだ無いよ?」

そんな馬鹿な。優の告白を受け入れてから2週間も経って毎日話してるのに、僕はそんなことも言ってなかったのか?

「だから…本当に好きなのか知りたくて。もしかしたら、私ばっかり弓親のこと好きなのかなって」

僕はそうやって優を不安な気持ちにさせていたのか。お嫁さんにするとまで言っておいて、だめだな。

「今までちゃんと言えなくてごめん、謝るよ」

僕は意を決して、懐から小さな箱を取り出した。

「好きだよ、優。僕のことを好きでいてくれてありがとう」

箱から指輪を取り出して、優の左手の薬指にはめてあげた。

「こっ、これ…」
「安物で悪いんだけど、婚約指輪ってことで。優がちゃんと大人になったら、もっと良いのを買うから」
「嬉しい…!」
「その時は、僕の本当のお嫁さんになってね」
「うん!」

優は今まで見たことないくらいの笑顔で抱きついてきた。僕もそれに応えるようにしっかりと優を抱き締めた。

「弓親大好き!」
「僕は優のこと、愛してるよ」
「!!」

優は驚いて僕から体を離した。見れば優の顔は赤くなっていた。可愛いなぁと思って優にキスをしてやった。