自惚れ

ある日森の中で虚さんに出会い追いかけられていたところ、救援に来てくれた弓親さんに出会いました。颯爽と現れた弓親さんは華のように美しく、今まで見た誰よりも美しくて麗しかった。

「弓親さん…飽きてきました」

そんな最高に美しい弓親さんに、私は何故か気に入られ、しょっちゅう部屋に呼ばれることになってしまった。弓親さんは美しく、眼の保養になるので嫌ではないのだが、一つ問題なのが、私の都合を考えてくれない自分勝手な人だということだった。

「そう?僕は飽きないんだけどな」
「足痛くないですか?」
「気を使ってくれなくて結構だよ」
「弓親さんはもう少し私に気を使ってください…」

部屋に呼ばれてお茶を出され色んなお話をする。それは別に嫌じゃないし、むしろ楽しいし良いのだが、弓親さんの視線が奇妙だ。人の目を見て話せという教育は受けたが、弓親さんはあまりにも私のことを見すぎていて、目を見るのが辛くなってしまう。

「君が眠いなんて言うから気を使って寝かせてあげてるのに」
「そんなに凝視されたら眠気なんて飛んでしまいましたが」
「それは良かった、眠くないならまだ会話できるね」

弓親さんは無邪気な笑顔でそう言ってくる。眠いと言ったら横になることを進められ、膝を貸してくれたのだが、視線が気になって眠れない。

「弓親さん仕事しなくていいんですか」
「十一番隊なんて任務で駆り出されない限り暇だから問題無いよ」
「私は仕事さぼってまでここに来てるってのに…」
「そうまでして会いに来てくれてるんだ?嬉しいね」
「無視すると不機嫌になるくせに…」

弓親さんの膝に乗せたままの頭を優しく撫でられる。それがなんだか心地よくて、不満を言う気が失せてしまう。

「さぼって怒られるのは私なんですからね…」
「じゃあ来なきゃいいのに」
「…来ないと弓親さん怒るじゃないですか。いつもいつも用がある訳でもないのになんで来させるんですか」
「用が無いと会ってくれないの?」
「私だって暇じゃないんですからね」
「ふぅん…。会いたいから、ってのは会う理由にならないかな?僕はいつも君に会いたいから呼んでるんだけど」

ふざけてる訳でもなく、真面目な顔でそんなことを言ってくる。弓親さんにその気はなくても、口説かれている気分になる。ドキドキしてしまうからやめてくれ。

「弓親さん、私のこと好きなんじゃないですか?」

ため息混じりについ、そんなことを口走ってしまった。

「好きだけど、何?」

訂正する間もなく、弓親さんの返事が返ってきた。予想外の返答で、それに対して何も言えずに固まってしまった。

「ていうか、君も僕のこと好きでしょ?普通は好きでもなんでもない男に呼び出されてのこのこ部屋まで来ないでしょ」
「…わ、私、弓親さんのこと好きなの?いつから!?」
「そんなの、自分の心に聞いてよね」

唐突に、枕にしていた足を抜かれて、私の頭は畳に落とされた。痛くて頭をさすっていたら、弓親さんによって身体を起こされた。

「君とはもう少しこの緩い関係を続けるのも良いと思ったんだけど、もうダメみたい」

そのまま弓親さんに抱き締められることになってしまったが、弓親さんのいい香りに包まれて頭がくらくらした。

「ま、待って、私まだよく理解できてないから、話進めないで!」
「君が変なことを聞いたのがいけないんだよ」
「や、そ、それはそうだけど、でも…」
「でも、君も僕が好きでしょ?」

弓親さんの腕の中でドキドキさせられて、全然嫌に思わないあたり、私はきっといつの間にか弓親さんに惚れていたんだろう。それにしてもこんな、否定できない状況で聞いてくる弓親さんはとてもずるい。

「これからも、また呼んだらすぐ来てくれるよね?」
「…うん」
「たまには僕からも会いに行ってあげるから、会いたくなったらいつでも呼んでくれてもいいよ」
「…待つの好きじゃないから、会いたくなったらいつだって私から会いに行きます」
「そんなこと言いながら、僕からの呼び出しを楽しみに待ってるくせに」

弓親さんはくすくす笑いながら私の頭を撫でてくる。
もっと撫でて欲しいなんて言えなくて、弓親さんにすり寄った。

「私を惚れさせた罪は重いですからね」
「それはこっちの台詞だよ。一生かけて償ってよね」
「…弓親さんもね」