嫌いじゃない

「デートしよう」

クラス中の女子に散々かけていた言葉。私も過去に何度も言われたことがある。そして今日もまた、聞き飽きた台詞をぶつけられた。

「あっ、ねぇねぇ切島くーん、明日の授業さー」
「おいおい!無視!?無視はやめようぜ!俺のこと見えてるよな!?」
「ちょっと、邪魔しないでよ、今から切島くんと特に中身の無い世間話するところなんだから」
「その程度の会話だったら先に話しかけた俺のこと優先してくれてもよくねーか!?」

私は上鳴くんのお誘いに乗る気は一切無い。入学当初もデートしようと言われてめちゃくちゃドキドキしたが、後からこいつがめちゃくちゃ軽い男だと理解してがっかりした。浮かれた私がバカなのだが、もうそんな想いはしたくない。

「誰でもいいんでしょ?他の子誘いなよ」
「誰でもはよくねーよ、可愛い子しか誘わないって」
「は?そんなこと言ってクラスの女の子みんな誘ってるじゃん」
「だってこのクラスの女子全員可愛いから」
「サイテー」
「なんでだよ!」

上鳴くんは悪い奴ではない。だけど、恋愛観は私と合わなすぎてダメだ。

「私は一途な男がタイプだから上鳴くんとはデートしません」
「え、じゃあ俺が毎日横島だけデートに誘うようにしたら付き合ってくれんの?」
「そういうことじゃなくない?」
「なんで?俺のこと嫌い?」
「き、嫌いじゃないけど」
「嫌いじゃない男子が横島に一途になったら悪くなくね?」

上鳴くんはどういうつもりか、真面目な顔でそんなことを言う。君さ、ここがどこだか解ってるのかな。まだ教室だし、数人残ってるから話聞かれてるよ?人前で私が、上鳴くんアリだよ!おっけー!とか言うと思ったの?

「なぁ横島、今日も明日も明後日も明明後日も、毎日俺とデートしようぜ!」

私が、上鳴くんと毎日デート。他の女の子とはデートせず、私だけと、デート。悪くないなんて思ってしまう私はチョロいのだろうか。

「…ごめん、冷静に考えたら毎日デートとかめんどくさい」
「何だよそれ!じゃあ一日置きでいいよ、我慢するから」
「一日置きに他の女の子デートに誘うんでしょ?」
「誘わねーって!ほら、切島とか爆豪と遊ぶし」

巻き込まれた爆豪くんの「あ"ぁ!?」という声が聞こえる。怖いから関わらせないでほしい。

「横島が俺と付き合ってくれたら二度と他の女の子デートに誘ったりしないって約束する」
「…まだデートしたことない私と、付き合うとか簡単に決めていいの?」
「だって横島、付き合わないとデートしてくれないだろ!」
「うん」
「だから付き合おうって言ってんだって!」

どうせならもっと放課後の二人きりの教室くらいロマンチックな場所で付き合おうって言われたかった。放課後だけどまだ人がたくさんいる教室なんかで言われたくなかった。ムードの欠片も無い。

「デートしたいから付き合いたいの?」
「は?好きだからデートしたいし付き合いたいんだけど」

上鳴くんの言葉で、教室がざわついた。いくらあのちゃらちゃらした上鳴くんでも、愛の告白みたいな台詞は今まで聞いたことがなかった。

「だ……だったら、なんで、今まで他の子デートに誘いまくってたの」
「そりゃ可愛い子とデートしたいから」
「は!?」
「や、だって、好きな子がデートしてくれないなら他の子に癒してもらいたいじゃん?可愛い子と居ると癒されるし」
「はぁ!?」

それほんとに私のこと好きだって言えるのか?上鳴くんの可愛い判定下される女子なら誰でもいいんじゃないの。

「上鳴くんのそういうとこ嫌」
「嫌い?」
「嫌い」

数秒の沈黙が生まれてしまった。さすがに嫌いなんて言い過ぎたか。上鳴くんは悲しげな瞳で私を見つめてきた。そんな顔されると、すべてを許してしまいそうになる。

「……それってさ、他の女子に嫉妬してるってこと?」
「はい?」
「横島って思った以上に俺のこと好きなんじゃねーの」
「今嫌いって言ったばっかだよね!?」
「よそ見するからだろ?俺もう横島しか誘わないし横島しか見ないから!な!」

上鳴くんは私の手を握って、じっと見つめてくる。

「…付き合うかどうかは別にして、とりあえずデートくらいなら」
「やったー!!お堅い横島とデートとか実質付き合ってるようなもんじゃん!俺のこと電気って呼んでもいいんだぜ!」
「それはまだ早い!」
「まだってことは今後呼んでくれるのな!やったー!」
「ち、ちが、」

上鳴くんが騒ぐから、三奈ちゃんあたりがヒューヒュー言ってきた。やめて。

「じゃあ俺が一足先に優って呼ぶからよろしくな!」
「や……やだ!」
「照れんなよ〜〜」
「むり!照れるに決まってるでしょ!!」

付き合うと言ったわけじゃないのに。デートを承諾しただけなのに。なんでこんなイチャついた雰囲気になって、上鳴くんはめちゃくちゃ嬉しそうな顔してるわけ。そんな可愛い顔で喜ばれたら、もっと喜ばせたくなっちゃうじゃん。

「とりあえず今日手繋いで帰る?」
「やだ!」

まぁでも、人前で素直に上鳴くんを喜ばせるなんてこと、恥ずかしくてできそうにないけど。上鳴くんが本当に私に一途なとこ見せてくれたら、デレてみせようかな。