置いてかないで


「あっ、恋次ー!暇だからおやつ食べに行こ!たいやき!」

恋次と私は院生の頃からの同期で、今は一緒に十一番隊になって落ち着いていた。恋次は十一番隊の六席で、私は七席だ。
女だからってなめられることもあったけど、それは実力でカバーしてやった。鬼道が苦手だったのと、恋次に置いていかれたくなくて剣術を鍛えまくったおかげでこうして恋次と一緒にいられる。
ずっとこうやって恋次と一緒に働いていられると、そう思っていたのに、現実はそうはいかなかった。

「おう優!聞いて驚け!俺、昇格することになったぜ!」
「昇格?四席しか空いてないのに」
「十一番隊じゃなくなるのが惜しいんだけどよ、なんと六番隊の副隊長だ!すげぇだろ?」

恋次は鼻高々と笑ってみせた。私は一緒に喜ぶべきなのに、笑うことなんてできなかった。

「んだよ、吃驚しすぎて声も出ねぇってか?」
「…お、おめでとう」
「そう思うならもうちっとめでたい顔しろよ」

ぐにっと頬をつねられる。頬の痛さと胸の痛さで、涙が溢れてきた。

「なっ、なんで泣くんだよ!そんなに痛かったか!?」
「わ、私、恋次と一緒にいられなくなるなんて、やだよ…いままでも、これからも、ずっと一緒だと思ってたのにっ…」

本当なら一緒に喜んで一緒に笑って祝うべきなのに、自分勝手な私の口からはお祝いの言葉が出てこない。

「どんなに追いかけても、恋次はそうやって私を置いてきぼりにするっ…。恋次はどんどん私から遠ざかっていく…」
「…しょうがねぇだろ」
「恋次の方が強いから、離れていくのはしょうがないよ…。だけど、寂しいんだよ…」

私はまだまだガキだから、ずっと恋次と仲良く遊んでいたい。そんなワガママで恋次を困らせてしまう自分が、嫌いだ。

「会えなくなる訳じゃねぇんだから、そんな顔すんな」
「…ごめん」
「…ちゃんと会いに来てやるから、寂しがるな」

ぶっきらぼうに頭を撫でられる。恋次は困っていた。私をなんとか励まそうと、弱い頭を働かせてくれていた。

「環境が変わるついでに、もっと困らせること言っていい?」
「…何だよ」
「恋次のこと好きだから、もっと一緒にいたかった」

恋次は私の言葉で眼を丸くさせた。離れる前に言いたいことは言ったからもう充分だ。手で豪快に涙を拭い去り、私は立ち去ろうとした。
なのに恋次は私の腕を掴んで、そうさせてはくれなかった。

「い、言い逃げすんじゃねぇよ!」
「…だって、これ以上恋次に何か言ったら、負担にしかならないよ。せっかく恋次が副隊長になって頑張ろうとしてるのに、邪魔なんかしたくないもん…」
「邪魔じゃねぇから、まだ何かあるなら言え!」
「…私、」
「やっぱ待て!俺に先に喋らせろ」

言えと言ったり待てと言ったり、はっきりしてよ。
先に喋らせろと言う割には恋次はなかなか喋り出さない。
恋次の顔を見てみると、頬を染めながら眉間に皺を寄せていた。

「…俺も優が好きだ。だから、付き合ってくれ」
「…ほ、本当に?私でいい?」
「あぁ。隊は離れるけど、それでも、絶対に優に寂しい思いはさせねぇようにするから」

離れてしまうというのに、恋次の力強い言葉のおかげで、いつになく恋次を近く感じた。とてつもなく嬉しくなって、またしても涙腺が緩んでしまった。

「ありがとう、迷惑かけて困らせてごめんね」
「お前に困らせられるのはもう慣れてんだよ。…けどそろそろ落ち着けよ」

死覇装の袖で私の涙を拭ってくる。不器用なせいで乱暴で痛かったけど、そんな恋次の不器用さも愛しくて嬉しかった。

「恋次も、寂しくなったら泣き付いてきてくれていいんだからね」
「…じゃあ、遠慮なく」

恋次はぶっきらぼうに私を抱き締めた。寂しくなったら、と言ったのに。ということは恋次も私と離れるのが寂しいということか。寂しいのはお互い様だというのに私ばかり騒いでしまって情けない。

「私も、もっと強くなるから…」

だから私の手の届かないところまで行かないで。