▼▲▼
「それでね……、って、…雨竜、私の話…聞いてる？」
おーい、と目の前で手を振られる。ぼーっとしすぎていた。そういえば今は優と二人で帰ってるとこだった。
「あ、ごめん…」
「…なんかさっきから上の空だしさぁ、何考えてたの？」
君のことだよ、なんて言えるはずもない。
「…ごめん」
「ごめんじゃなくて。謝らないでよ。私は寂しいよ？雨竜が私の話を綺麗に聞き流しちゃってさー」
「ごめん…」
謝ったら、優は眉間にしわを寄せて睨んできた。ああ、また怒らせてしまった。
「雨竜、どうしてそんなにボーっとしてるの？…私と居ると退屈？」
「違う、そういうことじゃない」
「じゃあ何？」
「…優は、黒崎や井上さん達と居る方が楽しそうなのに…どうして僕と帰るのかなって思って」
黒崎たちと居るときはいつも馬鹿みたいに笑ってるくせに。なのに、下校や休み時間は僕のところにやってくる。それが僕には不思議でしょうがない。
「雨竜と居ると、安心するから」
「…でも、黒崎たちと居るときの方が楽しいんだろう？」
「うん」
そこは認めるのか。
「でも、私のテンションが上がりまくるのは雨竜と居るときだけだよ」
「楽しくもないのに、どうして？」
「…わからないの？」
「わからないから聞いてるんだよ」
「…」
優は黙り込んでしまった。どうしたらいいんだろう。
「優…」
「雨竜、私は雨竜と一緒に居るとすごく嬉しいよ」
「…」
「逆に言うと、雨竜が居ないと、嬉しくない」
僕だって、優が居れば嬉しい。優が黒崎たちの所に居ると、嬉しくない。
「だから、雨竜と居るの」
「…それだけ？」
「…うん、それだけ」
なんだ。つまらない。好きだとか、そういう理由が欲しかった。
「じゃあ僕からも言うけど、僕も優が居ないと嬉しくない」
「ほ、本当？」
「あと、優が居ると、嬉しい」
優の顔を見てみれば、驚いたような顔をしていた。
わかってる。僕が普段こういうことを言わないのは。
「雨竜も同じ事思ってたんだ…。嬉しいなぁ」
えへへ、と優が笑う。
「…それと、そうやって笑って嬉しいって言ってくれる優が、好きだ」
「……もう一回言って」
「嫌だ」
「えー。えーーー、えー、もう一回、言ってよ」
「断る」
そんな恥ずかしいこと何回も言えるか。
「私も、そうやって、いつも青白い顔を真っ赤にしてくれる雨竜が、好きだよ」
そう言いながら、優も顔を真っ赤にしていた。ああ、こんなことならもっと早く言えば良かった。
「ちょっと…手でも繋いでみようよ」
「…ごめん…、家着いた」
「……謝らないでっ」
▲▼▲