貴方への第一歩

私のクラスには、有名人がいる。女子高生探偵の桂木弥子だ。
中学の頃からの友達で、たまに遊んだりする仲だったのだが、有名になってからというもの、弥子は遊んでくれなくなった。助手の人と一緒に色んなところに行って有名人とかにも会ってるみたいだし、めちゃくちゃ羨ましかった。しかもその助手、この前見かけたとき私の好みストライクで、正直やばかった。

「おはよー優!ちょっと聞いてよー!」

なんて言いながら弥子は色んな話をしてくる。一応探偵だから、事件の詳しいところまでは教えてくれないけど、なぜか助手にこきつかわれているようで、助手への愚痴が多かった。そんなに文句があるなら私が手伝おうかとか私が代わってあげようかとか、色々思うけどそんな図々しいことは言えなかった。

このままきっと、弥子は探偵として有名になって、平凡な私は平凡に生きて、難事件を解決する弥子とは関わらない道を行くんだろうなぁと、思っていた。

「お願い優!頭脳で頼れる友達がいないの!!」
「…お仕事は?」
「それもさぼれないから…探偵事務所で家庭教師になってほしいんだけど…だめ?」

テスト勉強を教えてくれだなんて。しかも事務所に連れていってもらえるだなんて。そんなの、断る理由がないじゃない。うちの高校のテストは難しいから、ほんとは人に教えてる余裕なんかないけど、あの最高に好みな助手さんに少しでも近付けるのなら、私はやってやると決めた。


「ネウロ!強力な助っ人を呼んだからもうあんたの力なんか借りなくても地獄のテストなんか乗り越えてやるわよ!」
「あぁ、よく先生と一緒にいらっしゃるご友人の方ですね。こんにちは」
「こんにちは!お邪魔します、横島優と申します!」

ネウロさんは爽やかな笑顔で挨拶をしてくれて、それだけで胸がドキドキと高鳴った。合法的に好みな人と会話ができるなんて。弥子はキューピッドか。

「先生は仕事で手一杯なのに…勉強なんかしている暇があるのですか?」
「仕事はあんたがすればいーでしょ。せっかく優に来てもらったんだから、私は勉強するもん」
「…そうですか」

この二人、実は仲悪いのかな。弥子ってこんなにトゲトゲしてたっけ。

「優よ」

不穏な空気を感じてしまってどうしようかと考えていたら、不意に低い声で名前を呼ばれてドキリとする。この事務所でそんな声を出せるのはネウロさんしか居らず、顔を向けてみれば視線が交わった。この人、初対面の人の名前呼び捨てにできるような人種だったのか。

「そんなミミズ以下の脳ミソに勉強なんぞ叩き込んだところで無駄だぞ、やめておけ」
「ちょっとネウロ!」
「それに、部外者にここに居られると我輩も仕事ができんのだ。今すぐ帰るか、ここに残って仕事を手伝うか選べ」

さっきの爽やかスマイルは何だったのかと思うくらい、ネウロさんが豹変した。たしかにまだ笑顔ではあるのだが、爽やかさのかけらもなかった。私がいると仕事ができないってのは、その真意は何なのだろう。

「…お仕事、手伝ったら何か良いことあるんですか?」
「報酬か?欲しいならくれてやる。貴様の仕事の出来にもよるがな」
「優、やめといた方がいいよ、こいつに何されるかわかんないよ!?こいつ、あの、鬼だし悪魔だし魔人だから!!」

弥子に肩を掴まれ必死に揺さぶられた。もしかしてこの感じ、メインで仕事をしているのはネウロさんで、弥子がネウロさんを助手にしてるんじゃなくて、ネウロさんが弥子を利用している?

「私が手伝ったら、弥子の負担減ります?」
「そうかもしれないな」
「じゃあやります」
「優!!」
「弥子は勉強でもしてなよ。留年されたら私寂しいもん」

嘘と本音を織り混ぜて、弥子の頭を撫でておいた。ごめんね、ネウロさんに近付きたいのが一番の理由で。

「期待しているぞ、優」

弥子は顔を青くさせているし、鬼とまで言われたネウロさんに私は何をされてしまうのか全く想像もつかないけれど、恋は盲目なのでわくわくしか感じないよ。