最期の記憶

「優」

思いつめたような顔で、震える声で、サイは私のことを見つめていた。

「もう、我慢できない…」

サイは私の目の前まで来て、同じ目線になるように座り込む。

「優…」

サイの冷たい指先が、私の頬に触れる。

「俺、もうだめなんだ。早く自分の正体を知りたいんだよ。このままじゃ、俺…どんどん人間から離れていく」

その冷たい手をぎゅっと握る。ちゃんと、人間らしい鼓動を感じた。

「優の正体…見せて?」

サイは辛そうな顔で言ってきた。
正体を見る。
私がサイと一緒に居た時間の中で、何度も見た光景だ。

「俺…焦ってるんだよ。ずっと一人ぼっちは嫌なんだ。だから、記憶の手掛かりになりそうな人間の正体を一人でも多く見たいんだ」

一人ぼっち。サイはそんな風に感じてるのか。私がずっと、一緒に居たにも関わらず。

「俺このままだと、気が狂いそうだよ…」

サイは私の手を握り返し、ぼろぼろと涙を流した。

「優…」

切ない声で、何度も名前を呼んでくるから、私まで泣けてきた。

「いいよ…。サイに殺されるなら、本望だよ」
「…本当に?」
「もちろん」

精一杯笑って見せるけど、そんな笑顔は長く続かずすぐに崩れてしまう。

「…優」

サイは子供みたいに抱きついてきた。血なまぐさい臭いが鼻をつく。でもそんなのはもう慣れた。血の匂いも全部含めてサイの匂いだから。私もサイの背中に手を回した。

「私…、サイのこと大好きだよ。今も昔も、これからも…」
「…ごめんね。俺…」

サイの腕が少しずつ、きつく締まってくる。

「俺…色んなこと忘れても、優のことだけは忘れないよ。俺、優が大好きだから…」
「サイ…」

グシャッッ、と身体から砕けるような音が聞こえ、一瞬で目の前が真っ暗になった。


「優…、優っ…」

貴方の声は、もう聞こえない。