幸福

「ねぇ、優ー」

背中側からぎゅううと抱きついてくる少年。

「寒いよー」
「じゃあ服着れば?」
「着てるよ」
「そんなぶかぶかな薄い服一枚でいるからいけないんだよ」

服がでかいおかげで指先が隠れるのは良いが、肩が丸出しなのに問題があると思う。

「もっと着たらどうなの?見てるだけで寒い」

サイの腕を外して、自分が着ているモコモコのコートを脱いだ。

「優、何脱いでるの?発情期ってやつ?」
「君はそういうくだらないことばっか覚えないで、もっと一般常識を覚えなさい」

振り返って、サイの肩にコートをかけてあげた。サイが一気に温かそうに見えて、自分はすごく寒くなった。こんなに寒いならやっぱり自分で着とけばよかった。

「あったかい…」

無邪気な笑顔を見せるサイ。こんな柔らかい表情を見てしまえば、やっぱりコートを貸してあげて正解だと思えた。

「でも、優は寒くないの?」

サイは首を斜めに傾ける。

「いいんだよ。サイが温かくて幸せなら、私は嬉しい」
「本当?」
「うん。本当。だから私は今嬉しい」
「でも、寒いでしょ?」
「…まぁね」
「ふぅん」

サイは弱い頭をどう捻らせたのか、私の後ろに回ってきた。

「じゃあさ、こうしたら俺も優も二人で温かくなるよね」

ガバッと、サイとコートに包まれる。人肌を感じ温かい。

「どうどう?俺賢くなったと思わない?」
「あぁそうだね。すごく賢いよ」
「やったぁ!」

子供みたいにすり寄ってくるのが、可愛くてしょうがない。

「じゃあ温かいからずっとこのままでいようよ。そしたら俺も優も幸せでしょ?」
「サイはやることがあるでしょ」
「そうだけど…。それなら、寒い日は優にくっつくことにする」
「これから毎日、どんどん寒くなるけどどうするの」
「んー…。じゃあ、毎日優にくっつかなきゃね」

耳元でくすくすと笑うサイ。みんなに怪物と恐れられるのを忘れるぐらい、普通の人間と変わらない笑顔だった。

「サイがくっつきたいのなら、いくらでもどうぞ」
「わーい!」

私はずっと、この温かい笑顔を守りたいと思った。