そういうことじゃなくて


「石垣」
「今取り込みちゅう〜」

石垣がそう言いながらやっているのは、プラモ制作だった。ふざけるな。

「暇なんだけど。っていうかそれより仕事しろよ」
「え〜」
「そんなにそれが好きなの?」
「そりゃそうだ!仕事なんかよりプラモ作ってる方が楽しいし。大好きだ」

いいなぁ、私もプラモになりたい。そしたら、石垣に大好きとか言われちゃうし。…まぁ、虚しい願望なんだけど。

「仕事なんか、とか言ってると笹塚さんに怒られちゃうよ?」
「大丈夫だ、問題ない」
「最悪な後輩だなぁ」

石垣の隣に座って、プラモ制作を観察する。あーあ、遊びにはこんな真剣な顔見せるんだよね。普段はこんな顔しないくせに。

「今度それ、映画やるんだってね」
「そうなんだよ〜!俺もう楽しみでさぁ、嬉しくて笹塚先輩に電話したら着信拒否されちゃって」
「へぇ。見に行くの?」
「もちろん」
「ひとりぼっちで?」
「ひとりぼっちとか言うなよー…。悲しくなるだろ?はぁ…。リア充とか爆発しないかな」

この反応を見る限り、石垣はまだ独り身のようだ。良かった。

「ねぇ石垣」
「ん?」
「昼から、見回り一緒にいこ?」
「えー…」
「三丁目で痴漢が出るらしいから。行かなきゃいけないの」
「…わかった。しょうがないなー」

心底めんどくさそうな顔をされる。たまには私にもプラモに向けるような真剣な顔や笑顔を向けてほしいものだ。

「ねぇ石垣」
「ん?」
「私さ、好きだよ」

そう言ったら石垣はプラモを机に置いて、輝いた笑顔でこっちを向いた。無邪気すぎる笑顔で、胸が異常なほど高まった。

「そっか!優もガンダム好きなのか!じゃあ一緒に映画見にいこう!」
「え」

石垣の思考回路には度肝を抜かれた。ありえない。誰がガンダムが好きだなんて言った。いや、まぁ石垣が好きってはっきり言ったわけじゃないんだけど…。

「ひとりぼっちはさすがに寂しいからさー。優が居てくれて良かったよ」

なんて満面の笑みで言われたら、勘違いを訂正する気もどこかへいってしまった。

「そっか。私も、石垣が居てくれて良かったよ」
「なんだよー。照れること言うなよなー」
「石垣が言ったんだよ」
「あ、そっか」

この鈍感で馬鹿な石垣は、いつになったら私の気持ちに気付いてくれるのか。まだまだ先は長そうだ。