交わる視線

「やっとできた!宇宙戦艦…」
「仕事しろ。給料減らすぞ」
「大和ー!!!」

今日もまた笹塚さんは石垣くんのプラモを壊していた。

「先輩ひどい!」
「お前が悪い」

笹塚さんの言う通り、さぼりまくる石垣くんが悪い。けど、できたやつ壊すのはちょっと可哀想じゃないかな。

「横島、悪いけどこいつが遊んでたら注意してくんねぇか?俺、こいつに常に構ってられるほど暇じゃなくてさ」

なんて、また頼まれてしまう。

「…あの…。プラモ、壊すのやめてあげて下さい」

ドキドキしながら口答えしてみた。そしたら周りの人がこっちを見てきた。え、何。私が石垣くんの味方したらおかしいの。

「さぼるのが悪いですけど、壊すのは、ちょっと…。……いえ、あの、やっぱいいです…」

笹塚さんや周りの視線が痛くて、これ以上言えなかった。石垣くんはキラキラした目で見てきたけど。

「…ふぅん、わかった。じゃあそうする。けど石垣、壊さないけど没収はするからな」

笹塚さんは離れていった。

「横島、ありがと!」
「…」

普段の行いが良いと話を聞いてもらえるんだな。これはやっぱり、さぼらない方が良いね。仕事中はあんまり石垣くんとしゃべらないようにしとこ。遊んでると思われちゃう。


♂♀


それから自分からは話かけずに真面目に仕事した。石垣くんがゲームしてるときに私もゲームしたかったけど、一応笹塚さんに石垣くんを注意するよう頼まれたし。注意しなきゃいけない立場だから、自分がゲームなんかやってられない。こうして頼まれたことを断れないのは、やっぱり私が真面目だからなのかな。

「はぁ…」

石垣くんは一人で百面相しながらゲームしてるし。楽しそうでいいなぁ、とか思って眺めていたら、石垣くんがこっちを見て目が合った。すぐに視線をそらしたら、またゲームをし始める。この人、いつ仕事してるんだ。注意するよう頼まれたからって、気付いてないふりすれば注意しなくてもいいよね。

私は昼休憩にいこうと思って席を立つ。その際、また石垣くんと目が合った。なんでこんなに目が合うんだ。そんなにこっち見ないで欲しいな。いや、私が石垣くんのこと見るから目が合うのか。なんで石垣くんのことばっかり見てるんだろう。笹塚さんに、注意するよう言われたから見ちゃうのかな。

そう自己完結して食堂へ向かった。そういえば今日はあんまり体が冷えないな。笹塚さんにつっかかるなんて慣れないことしたから緊張して体温上がったのかな。


それからきっちり一時間の昼休憩をして、仕事場に戻る。ちょうど石垣くんが出てきて、すれ違う時に目が合った。何か声をかけようかとも思ったけど、話しかける言葉が見つからない。向こうもそんな気持ちなのか、目は合っているものの何も言ってこなかった。何か言いたそうにはしていたけど。

自分の席に戻ってパソコンに向かう。今日はなんだか調子が良い。冷え症なんて忘れたかのように指がよく動く。
調子良く仕事をこなしていたらすぐに時間が経って、石垣くんが戻ってきた。扉の前の石垣くんとまた目が合う。ドキリとして、慌ててディスプレイに目を戻した。あれ、今何しようとしてたんだっけ。キーボードを叩く指が止まってしまった。

「ねぇ横島」

思い出した。三日前に起きた事件の見直しだ。そのファイルを開くとディスプレイには事件のことが事細かに表示された。石垣くんはその間に自分の席、私の斜め前に座ってこっちを見ていた。

「何」

昨日現場に行って調べてきた情報をパソコンに打ち込む。

「なんでそんなに俺の方見てくるんだよ。もしかして俺のこと好きなの?目合うと顔赤くなるし」

何を言ってるんだ、と頭では冷静に対処したのに、体が勝手に反応して机に足を思い切りぶつけてしまった。ガタガタッと騒音をたててしまう。私ってば何をそんなに動揺してるんだ。周りが驚いた顔で私を見てくる。

「え、まじ?ていうか、顔赤いよ」

マウスから手を離して自分の頬に手を当ててみる。今日は体温が高くて手も温かいはずなのに、頬の方が温度が高かった。どういうこと。体温が高いのはただ調子が良いからじゃなくて、石垣くんが関係してたってことなの?

「横島?」
「…」

恥ずかしくて石垣くんの顔を見れない。周りがこそこそ話している。にやにやしてる。恥ずかしい。

「ね、ちょっと来て」

石垣くんは部署を出ていく。私も席を立ってその後をついていった。仕事中なのにこんなことしてていいのかな。廊下に出て、少しの沈黙が生まれた。

「なんか、ごめん。みんなの前であんなこと言っちゃって」

顔が熱い。冬にこんなに体温が上がるなんて。

「べつに…気にしてない。たぶん、その通りだし…」
「えっ。うそっ。え、お?す…好きなの?」

恥ずかしくて顔を上げられない。緊張して手が震える。
こんなに恥ずかしいのは、私が石垣くんのこと好きだからなのかな。

「わかんないけど…、石垣くんのことばっかり見ちゃうから、たぶん、そう…」

そう言ったら、震える手をぎゅっと握られた。石垣くんの手は私の手よりも大きくてしっかりしていて、熱かった。驚いて顔を上げると、石垣くんの顔も赤くなっていた。

「こんなことなら、あんな場所じゃなくて二人のときに言えば良かった!俺、横島のこと好きだよ」

いつもへらへらしてるのに、真剣な顔を見せられた。ドキッとしてしまった。

「俺バカだけどさ、それでも良かったら付き合ってほしい」

こんなこと初めて言われた。胸がドキドキする。こくん、と頷いたら石垣くんは明るい笑顔を見せてきた。

「やったー!」
「こ、声大きい…」

石垣くんが騒ぐと拍手の音が聞こえてきた。振り向くと、部署から何人か顔を出してこっちを見ていた。今のやりとり、聞かれてたのか。

「おめでと!」
「よかったな!」
「お前ら盗み聞きするなよなー!」

石垣くんは怒るけど、顔がいつもよりだらしなかった。

「つーか横島さん、そんなに女の子らしい顔するんだ」
「可愛いからって手出すなよ!俺の、か、彼女なんだからな!」

石垣くんが照れている。恥ずかしいなら言わなくていいのに。私だって恥ずかしい。だけど、可愛いとか彼女とか言ってもらえて、すごく嬉しくなった。

「わかったか!?」

肩を引き寄せられた。すごく近くなって、胸が高鳴った。見上げれば、照れてむきになっている可愛い石垣くんの顔。こんなに愛しいと思うなんて。

「…好き」

誰にも聞こえないような小声で言ってみれば、石垣くんは顔を真っ赤にさせた。

「は…反則」

それが可愛くて可愛くて、つい笑ってしまった。