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「あ、石垣…」
「ほんとだ…おーい!石垣さーん!」
私が石垣を見つけると、弥子は大声で石垣を呼び始めた。石垣は気付いて近付いて来たけど、クレープなんて可愛らしい物を食べているとこなんて見られたくなくて、顔を背けた。
「もう学校終わりか?いいな〜クレープ、俺におごってよ」
「アンタ大人でしょーが、なに高校生にねだってんの」
弥子は人見知りとか無くて羨ましい。石垣は子供っぽいけどこれでも年上だ。年上にこんなに軽く話し掛けられるなんて、羨ましい。私ももっと普通に喋りたい。
「で、横島は相変わらず素っ気ないな〜そろそろ慣れてくれてもいいのに」
「…うるさい」
「人見知り激しいからね。私も優と普通に喋れるようになるまで何ヵ月かかったことやら」
「ふーん…。じゃあ俺もまだ何ヵ月も話しかけ続けなきゃいけないな」
こんなのが何ヵ月も続くのか。というか、そこまでして喋りたいのだろうか。だったら私も努力しなきゃな。
「もしかして石垣さん…優のこと狙ってる?」
弥子がとんでもないことを言い出した。何歳差だと思ってるんだ。
「あっはー、ばれちゃった?」
「なっ…」
驚いてクレープごときを喉に詰まらせ、むせた。石垣に目を向けると視線が交わった。
「まだ高校生だから手出しちゃダメだと我慢してたけど…名探偵に暴かれちゃったから仕方がないな」
「…ロリコン?」
「高校生はもうロリコンの対象外だろ?」
全く意味が解らない。まともに喋ったことだって無いのに、どういうこと。
「っていう訳で横島、いや優ちゃん。俺なんかどうかな!」
ビシッとキメ顔でそんなことを聞かれた。どうって言われても、どう答えていいか解らない。
「…困る」
「ええっ。年上は嫌いか?」
「いや、その…」
上手く言葉が出てこない。別に年上も石垣のことも嫌いではない。むしろ仲良くしたいくらいだ。だからってここで仲良くしたいとか変なことを言えば思わぬ勘違いを引き起こしそうで。
「とっ、友達から…始めよう」
「おお!やった!ていうか今までは友達認定すらされてなかったか」
「そりゃそうでしょ。石垣さんなんか笹塚さんのただのオマケ程度だし」
弥子にとってはそうかも知れないが、私はよく喋ってくれる石垣の方が好印象だった。だからとりあえず、お友達になれてよかった。
「じゃあ優ちゃん、メアド交換しようよ!ついでに電話番号も!」
「ん…」
食べかけのクレープを落とさないように気をつけながら片手で携帯を取り出した。電話帳の件数が増えるのなんていつぶりだろうか。
「あ、ついでにもらうね」
「うわ…」
弥子がドン引きしたような声を出すから携帯から目を離して見たら、石垣が私の持っているクレープに噛みついていた。
「なななな…」
「うん、美味い」
食べかけを食べられた。いわゆる間接キスとかいうやつじゃないの。しかもこのあと私はこのクレープを食べなくてはならない。何という恥ずかしいお仕置きだ。私が何か悪いことでもしたのか。
「石垣さん…言っとくけど、優は人見知りな上に恥ずかしがり屋だよ」
「えっ、だから?あ、もしかして今のダメだった?」
恥ずかしいとばかり思っていたら顔が熱くなってきた。こんな赤面した状態でクレープなんか食べてたら何か勘違いされる。石垣のこと嫌いじゃないけど好きなわけじゃないからそれは阻止しなきゃ。
「あの…優ちゃん?」
石垣が心配そうに顔を覗きこんできた。その行為がまたグッときて、私は耐えられなくなった。
「べ、別に…連絡先聞かれて嬉しいとか、間接キスになるから恥ずかしいとか、そんなこと全然これっぽっちも考えてないんだからねっ!?」
私にしては声を張り上げてしまって、石垣も弥子も驚いていた。しまった、墓穴を掘ったみたいだ。
「…ツンデレか」
居たたまれなくなって、携帯とクレープを両手に持ったままその場から逃げ出した。二人の私を呼ぶ声が聞こえたけどそんなの気にせず、帰宅する勢いで全力で走った。
結局、石垣の連絡先も手に入れられなかったし、家に着く頃にはクレープの生クリームは溶けてふにゃふにゃでとても食べられる状態では無くて間接キスも行われなかった。別に惜しいとか思ったりしてない。
「私のばか…」
せっかく仲良くなるチャンスだったのに。
とりあえず先に帰ってしまったことを弥子に謝ろうと思って携帯を見てみたら、新着メールが一件来ていた。知らないアドレスだったが開いてみると、軽い謝罪文の後に石垣筍という文字が入っていた。私はそれを即座に登録して、弥子には謝罪と感謝のメールを送っておいた。
「やった…へへへっ…」
人から好意を持たれて接近されるのがこんなに嬉しいなんて。今までに無い心境の変化に驚きながらも、石垣に対してはもうちょっとだけフレンドリーになろうかな、なんて思ってしまったのは私らしくもないので誰にも秘密にしておこう。
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