色付いた頬

「あ…おい、横島!」

ドクン、と心臓が跳ねる。大好きなあの人の足音が小走りで近付いてくる。心臓の音もそれに比例して大きくなった。

「昨日の任務の報告書だけど…」

その男は私の顔を見るなり不思議そうな顔をした。

「熱でもあんのか?ほっぺ赤いぞ」

手の甲を私の頬に押し当ててくる。そのせいで恥ずかしくて、更に頬が熱を帯びてしまう。私はそれを隠すように、何でもないようなフリして話を繋いだ。

「用件は何です?」
「あ、あぁ。報告書、まだ書いてないよな?」
「これから書こうと思ってましたが」
「俺が書いて東仙隊長に出しといたから、もう書かなくていいぞ」
「えっ、わざわざすみません」
「いや、俺暇だったし」

暇と言いながら仕事をちゃっちゃとこなしてくれる。
仕事もできてかっこよくて優しいなんて、文句の付け所が見当たらない。私から見たら、檜佐木副隊長は完璧で、惚れない訳がない。

「…ホントに大丈夫か?熱計れよ」

檜佐木副隊長は私の気も知らないで、無神経にも頬を撫でてくる。誰のせいで頬が赤いかわかってるのか。

「檜佐木副隊長…。おでこ」

前髪をあげて、ちょっと甘えてみたり。馬鹿な副隊長は顔を近付けてきておでこをくっつけた。

「…熱は、無いのか?」

おでこくっつけたまましゃべってる。
副隊長は私の近くに居てもドキドキしないのかな。

「副隊長…、この距離でどうも思わないんです?」

尋ねながら少し距離をおく。
それでも距離は近いからドキドキする。

「どう思ってほしいんだ」
「…ドキドキ、とか、しません?」

副隊長の手をとり握ってみる。
つい周りを見て確認するが、周りには誰も居なかった。

「熱なんかないです。副隊長が近いから、顔が赤くなるんです」
「…俺のせい?」
「そうです。今だって…心臓止まりそうなんです」
「…」

私がこれだけ言っているのに、副隊長は黙ったまま。
こんなに恥ずかしくて顔が燃えそうなくらい熱くなってしまったというのに。

「副隊長と、話してるだけで息も止まりそう、です」
「…じゃあ、もし止まったら、俺が人工呼吸でもしてやるよ」

掠れた声で呟かれ、そっと触れた唇。乾燥してかさついていたけど、柔らかくて、心地よかった。

「…」
「…何か言えって」
「……気持ちいいです」

気持ちいいなんて感想はどうなのだろう。私、変態みたいじゃんか。

「…お前の、熱い」
「でしょうね…」
「…その熱俺にもわけてくれよ」

肩を持たれて、壁に背中がつく。ゆっくり顔を近づけてくる副隊長。目を瞑ると、唇に気持ちいい感触。あぁ、くせになりそうだ。

「副隊長…」

口が離れたときに、呼んでみる。目を開けて副隊長の顔を見れば、副隊長の頬まで赤くなっていた。

「副隊長…ほっぺ。ほんとに熱、うつったみたい」
「うっせぇ…見んな」

照れて顔をそらす副隊長はいつもと違って、可愛く見えた。