お見通し

「ねぇ、優…」

五限目の自習の時間。
先生が授業を放置してサボっているおかげで、みんなは馬鹿みたいに騒ぎまくっている。俺は、隣の席の優に話しかけてみた。

「何?」
「…昼休み、どこ行ってたのさ」

俺と通信対戦するって約束してたのに、優は教室から姿を消していた。トイレかもしれないと思って探さなかったけど、結局五限目の鐘が鳴るまで戻ってこなかった。

「何でもないよ」
「ゲームしようって言ってたじゃん」
「ごめん、忘れてた」
「…何だよ、それ」

大人しく待ってた俺が馬鹿みたいだ。怒るのは大人げないから怒りたくないけど、へこみはする。

「ごめんね」
「…謝れば良いってことじゃないんだよ」

俺はすねて机に伏せる。
俺は知っているんだ。優がなんで教室に居なかったか。隣のクラスの男子に呼び出しされてたからだ。トイレに行こうと廊下を歩いているときに、隣のクラスでそんな話をしているのを聞いてしまったから。

「怒ってる?」
「…別に」
「…、退、知ってるの?」
「何を?」
「…」

その通り全部知ってる。屋上に呼び出されたことも、告白されたことも、そいつの名前も。

「全部、知ってる」
「…やっぱり」
「隣のクラスの男子が…優がオーケーするかどうか、賭けしてた」
「…そっか」

なんだよその反応。そっちこそ全部知っていたような反応しやがって。

「むかつく…」
「…、嫉妬?」

少し怒りをぶつけてみたのに、優の場違いな嬉しそうな声が聞こえた。顔を少しあげて優を見てみれば、にやにや笑っていた。

「妬いてくれたんだ?」
「…なんで俺が」
「それは知らないけど」
「…で、どうするんだよ。あいつと、つき合うの?」

それだけは、絶対に嫌だ。友達ですらなかったような男に、優をとられたくなんかない。

「…そうかもね。私、断る理由が無いもん」

あの人同じ部活で優しい人だし、とあいつのことを話し始めた。
なんだよそれ。優しかったら誰でもいいのかよ。そんなことで付き合えるんだったら俺が優に世界一優しくしてやるっていうのに。

「…ふざけんな」
「ふざけてないよ」
「もういい。黙って。うるさい」
「…」

頭の中がぐちゃぐちゃになる。胸の中が真っ黒になってもやもやする。なんだか気持ち悪くて、また机に伏せた。

「俺が…、…」
「…何?」
「俺が、優のこと好きなの、知ってて言ってんだろ」

あんな奴に優を渡したくない。だったらまだ、優が決断する前に、俺の想いを確実に伝えておきたかった。

「知らなかった」
「…は?」
「真面目に。でも、止めてくれるとは思ってた」
「…なんで、止めてくれると思うんだよ」
「だって…退、親友だし。遊べる時間少なくなるから、嫌がって止めてくれると思った」

あぁ結局、優は俺のこと友達だとしか見てくれてないんだよな。俺がこんなに好きなのに、今まで少しも通じてなかったのか。

「…退」
「なんだよ…」
「私、本当はさっき…好きな人居るからって、断ってあったんだよね」
「…誰」
「退」
「…は?」
「だから…私の好きな人、退だってば…」

顔を上げて優を見てみれば、赤くなった顔を手で覆い隠すところだった。

「…本当?」
「嘘なんか、つかないよ」
「…なんだよ。怒って損した」

安心したら気が抜けて、大きなため息が口からもれた。

「優、怒ってごめん」
「…私こそ、無断で居なくなってごめん」
「…好きって言ってくれたら許そうかな」
「え、いや…それは…」
「…じゃあいい」

と、すねたふりをしてみれば、優は明らかに慌てた様子を見せてくる。

「ちょ…退、好きだよ、好きだから…」
「…恥ずかし」
「退が言わせたんじゃん…」
「顔赤いよ」

にやりと笑って優の頬をつついてみた。

「う、うるさい、ばか。嫌い」
「何でもいいよ。俺は優のこと好きだから」
「…ばか」

好きだと言っても許されるようになった瞬間に、一気に心が晴れて明るくなった。もう遠慮はいらないんだ。毎日好きだと伝えて、他の男が手出しできないようにしてやろう。