夢に出てきた


好きだと言っても許されるようになった瞬間に、一気に心が晴れて明るくなった。もう遠慮はいらないんだ。毎日好きだと伝えて、他の男が手出しできないようにしてやろう。

★2 夢に出てきた

「山崎…助けて…」

一人ぼっちで泣いてる君がいた。
手を伸ばしたら君はどろどろに溶けてしまって、それは夢で、すぐに目が覚めた。

「…」

気分の悪い夢で、君のことがすごく気になった。
目をこらして微かに月明かりに照らされた時計の針を見ると、夜中の二時だった。起き上がって、君の部屋に向かった。

「山崎だけど、優さん起きてる?」

声をかけて見れば、ガタン、と物音がした。どうやら起きているらしい。

「…何の用?」

こんな時間に訪ねたせいか、不機嫌そうな声を出された。申し訳ない気持ちはあったが、生きていることが確認できてほっとした。

「ちょっと目が覚めちゃって」
「だからってなんで私んとこ来るの?」
「優さんが泣いてる夢見たから」
「…帰れ」

失礼かな、と思ったけど戸を開けさせてもらった。優さんは起きていて縁側に座っていた。部屋は月明かりで照らされてい明るかった。

「何で勝手に開けてんの」
「ダメだった?」
「ダメ」
「じゃあ閉めるよ」

俺は部屋に入ってから戸を閉めた。

「山崎が入ってきたら意味無い」
「ごめんね」

優さんの隣まで行くと、顔を思いっきりそらされた。そんなに嫌わなくてもいいのに。

「ひどくない?」
「私に構わないで」
「なんで?」
「鬱陶しい」
「あは。新入りのくせに先輩に向かってその態度?」
「…」

無視されたけど、隣に座った。膝に置かれている優さんの拳は少し震えていた。

「正夢だったのかな」
「…うっせ」

その震える拳で顔面を殴られた。あまり力が入っていなかったみたいで、痛かったけど普通に我慢できるくらいだった。

「構わないでって、言ってるじゃんか」
「なんで構っちゃいけないの?」
「私と居てもつまんないだろ!早く帰れ!」

顔はこっちに向けないからよくわからないけど、声が震えていた。

「…話してるときはその人の目を見なさいって言われなかった?」

無理矢理、肩を持ってこっちを向かせた。瞳はウルウルと潤んでいて、今にも涙が零れそうだった。

「見たな」

不機嫌そうな顔をして殴りかかってきた。危機一髪でその拳を掴むと、優さんは驚いた顔をした。

「なんでそんなに泣きそうなの?」
「っ…お前が、鬱陶しくて仕方ないんだ」
「違うでしょ」

優さんは唇を噛んで俯いた。床にポタポタと雫が落ちてシミをつくる。

「ここ入ってから、誰とも仲良くなれた気がしないから…」

俺は優さんの手を離した。優さんは袖で豪快に涙を拭う。

「一人ぼっちで寂しいんだ。不安なことばっかで、夜だって、眠れなくて…」

さっきまでの覇気が嘘みたいに無くなって、まるでただの女の子だ。いつもの強気な姿は、この姿を隠すためなのだろうか。

「山崎だけは、いろいろ教えてくれたりしたけど、それだけで、全然仲良くしてくれないし…」
「だって優さん近寄るなとか言うし、挨拶もしてくれないから嫌なのかなって思って」
「知らない奴しか居ないとこだから、どう接していいかわかんないんだ、ばか」
「ほら、そうやってばかって言う」

優さんの頭に手を置いた。

「でもホントのこと聞けたからいいけどね。俺で良かったら、友達になるよ」
「…裏切らない?」
「裏切らないよ」
「ホントか?」
「ホントだよ」

そのまま優さんの髪を撫でてみると、さらさらで気持ちよかった。本当に、普通の女の子と同じだ。

「泣いていい?」
「え、なんで…」
「嬉しいからだ。受け止めろ」

そう言うと、いきなり抱きついてきた。女の子というか、子供みたいな人だな。

「冷たくしたら、やだからな」
「はいはい」

可愛く思えたから、優しく抱き締めてやった。誰も知らない優さんの姿を知ってしまった。こんな姿、他の誰にも見せてやりたくない。

「困ったらすぐ俺のこと頼っていいからね」
「…うん」

俺のことを、俺だけを頼ってほしい。そしてたまにでいいから、こんな甘えた姿を俺だけに見せてほしい。なんて、こんな下心がバレたら本気で嫌われてしまいそうだ。