誕生日


今日は一体何の日でしょう?

「おはよーございます副長!」
「おっす」

あれ?それだけ?なんだか薄情だし寂しいな。とは思うけど、まぁいいか、副長だし、覚えているわけがない。でもきっと優しい局長ならわかってくれるよな。

「おはよーございます局長!」
「おはようザキ!今日は元気がいいな!何かあるのか?」
「…いえ」

そうだ、局長みたいな脳みそゴリラな人が覚えてるわけがなかった。
それでも俺は淡い期待を持ち続けて真選組のみんなに挨拶しまくったけど、誰一人として挨拶以外の言葉を返してくれなかった。

「はぁ…」

軽く拗ねながらいつものようにパトロールのため屯所を出た。こんな日でも俺はいつも通りなんて。寂しすぎる。

「あれ、山崎だ。どうかしたの?」

うつ向いて歩いていたにも関わらず、女の子に声をかけられた。こんな地味でも気付いてくれるなんて。

「優ちゃんおはよ!」
「うん。おはよう」

いつも通り微笑んで挨拶をしてくれる。そう、いつも通り。
黙っていたら首を傾げられた。

「元気ないねぇ?」
「そう?そんなことないよ」
「なんで元気無いか私があててあげよっか!」
「どうせわかんないからいいよ」

優ちゃんの頭を撫でてコンビニに向かったら、後ろから優ちゃんがついてきた。

「今日も仕事なの?」
「そうだよ、いつも通りね」
「なんだ、せっかく誕生日なのにつまんないね」
「えっ?」
「ん?」

なんだ、知ってたのか。なのにすぐ祝ってくれないなんて意地悪だなぁ。

「私が誕生日覚えてないとでも思った?」
「そりゃあ…すぐ祝ってくれなかったし」
「ほうほう。それで山崎、今日は誰かとお祝いする予定はあるのかな?」
「あるわけないだろ。誰にも祝ってもらえなくてへこんでたくらいなんだから」
「誰にもねぇ…」

優ちゃんはくすくすと笑う。そうやって嘲笑ってればいいさ。俺は仕事仲間に祝ってもらえなくたって、優ちゃんに誕生日だと気づいてもらえるだけでこんなに幸せを感じてるんだから。

「じゃあ私が祝ってあげるよ!仕事何時に終わりそう?」
「えっ、ほんとに?んー…じゃあ早めに切り上げちゃおうかな」
「よーっし、プレゼント何がいい?何でも言って!」
「安くて簡単な物でいいよ。ていうか、気持ちだけでも十分嬉しいし」

仕事終わってからも会えるってだけで俺は嬉しいし。

「難しいよー」
「ならケーキ用意して待っててよ」
「用意って…どこで食べるつもり?」
「あ、そっか」
「……うち、来る?」

優ちゃんは柄にもなく頬を染めながらそういってきた。

「いいの!?」
「山崎モテないから、誕生日くらい女の子の家に行かせてあげないと可哀想だし!」
「わぁ…ありがと!」
「ほら、これ、」

ずっと握り締めていたような少しシワのはいった紙を渡された。

「住所、書いてあるから。警察なら住所見ればすぐこれるでしょ!」
「行ける行ける!ありがと!」

前もってこんな紙用意してたなんて、もしかして脈ありって考えていいのか!?

「それで、えっと、山崎は、私ともーっと仲良くなれたら、嬉しかったりするの?」
「そりゃあもう!」
「そっかそっか、じゃあさ、な、名前で呼んでも…ううん、名前で呼んであげるから感謝してよね!」

かっわいい初々しいツンデレだな…

「わわ、わかったら仕事ちゃんと頑張ってよ!…退!」

あれっ、なんか思った以上に恥ずかしいぞ?

「うん、ありがと頑張るよ。…優」

お返しに呼び捨てにしてみたら、優ちゃんは顔を真っ赤にさせた。
そんな可愛い反応されるとこっちまで照れてしまう。

「ずっと待ってるから!来なかったら泣くし二度と目の前に現れてあげないんだから!」
「それは嫌だから絶対早く行くよ」
「…約束だからね?」

優は逃げるように去っていった。
仕事が終わればお家デートか…。普通、好きでも何でもない男を家に呼んだりしないよな!?

「ぃよっしゃあ!!」

柄にもなく大声で気合いをいれた。俺は誕生日なんか誰にも祝ってもらえなくて構わない。ただ一人、大好きな子に祝ってもらえれば、それだけで十分だ。

「頑張ろう…」

可愛い字で住所の書かれた紙をポケットに押し込んで、俺はいつもよりも浮かれた気持ちで仕事に向かった。