見えない心


「遅い!!」

待ち合わせ時刻より20分も早く待ち合わせ場所に着いていたのに、山崎は遅刻してきた。息が切れているから急いでくれたのは解るが、待たせたことには変わりがない。

「ご、ごめん…」
「何してたの」
「隊長に邪魔されちゃって…」

沖田め、今度仕返ししてやる。山崎が遅れるとそれだけ会える時間が少なくなるんだから。それが許せない。

「もういい。早くどっか行こ」
「う、うん…ごめんね。どこ行こうか?」
「何でもいい」
「えっと…じゃあ、散歩でもしようか」

山崎は困ったように笑いながら歩き出した。私は山崎にこんな顔させたいわけじゃないのに。本当は二人で笑いあって、平和に過ごしたいのに。

「なんかごめんね、いつも仕事とかその他諸々で会える時間短いのにわざわざ呼び出しちゃって」
「別に。嫌だったらわざわざ来ないよ」
「なら良いんだけど…」

本当はもっと長く会ってたいけど、山崎は仕事があるから仕方がない。たとえ少しでも、会える時に会いたい。

「あの…、変なこと聞いてもいい?」
「何?」
「優ちゃん…本当に、俺のこと好きなの?」
「…は?」

なんでそんな馬鹿なことを聞くんだ。山崎を見ると、情けない顔で目をそらされた。

「だって…最近、恋人っぽいこと全然してないし…それに、優ちゃん、俺といても楽しそうじゃないし…」
「…じゃあ、このデートは何なの。恋人っぽいことじゃないの?山崎は、恋人でもない女の子とデートなんかするの?」
「いや、それは、優ちゃんとしかしないけど、だけどさ…」

山崎の言いたいことは解る。私の愛情表現が乏しいのがいけないんだ。

「こっち来て」
「え?」

言ってもどうせ解ってくれないだろうと思い、私は山崎の腕を掴んで路地裏に連れ込んだ。
人目のつかない所まで来たら、山崎を壁に押し付けた。

「悪いけど私、バカップルみたいに人前でイチャつく気は無いの」

山崎の胸ぐらを掴んで、無理やり唇を押し付ける。離れて顔を見てみると、目を丸くして頬を染めていた。

「私はちゃんと山崎のこと好きだよ」
「…本当に?」
「…好きでもない人に、こんなことしない」

誰も見てないから良いかと思い、山崎に抱きついた。

「迷惑だと思ってたから言わなかったけど、この際だから言うよ。山崎のこと大好きだから、もっと一緒にいたい。仕事とかたまには休めカスとか思っちゃうくらいだよ」
「…じゃあ俺、有給使わせてもらう」
「うん」
「今週末にでも、どこか遊びに行こうか」
「うん」

頷き続けていたら、山崎も私を抱き締めてくれた。

「でも安心した…俺も優ちゃん好きだよ」
「…だったら、もっと態度で示せっての」
「そっくりそのまま返すよ」
「何?これだけじゃ足りないの?もっとしてほしい?今から私の家来る?」

退の目を見ながら頬を撫でてみたら、照れて顔を赤くさせた。未だにこういう純粋な反応を見せてくれるのが可愛くて仕方がない。

「私はデレデレするの苦手なだけで山崎のことは問題無く好きだから、もっと安心してていいよ」
「…なんか、俺にはもったいないくらいよくできた彼女だなぁ」
「惚れちゃったんだからしょうがないでしょ」
「またそういう恥ずかしいことを…」
「態度で示して欲しかったんでしょ?」
「そうだけど…」

山崎はまた困ったような顔をして、ため息をついた。なんでそんな顔するんだと不満に思っていたら、ぎゅううと力いっぱい抱き締められた。

「あんまり可愛いこと言われると、仕事せずに遊んでたくなるじゃん…」
「遊ぼうよ、構ってよ」
「…だめだって」
「私より仕事が好き?」
「優ちゃんの方が好きだけど、俺がニートになったら嫌でしょ」

世間の女が言うようなウザイことを口にしても、山崎は正論で返してくる。ダメそうな顔してるくせにちゃんとしてるから腹が立つ。

「嫌だけど、明日だけニートしてくれない?」
「デートでもする?」
「今夜から明日にかけて山崎を一時も離したくなくなったから、拘束させてもらう」
「素直に一緒にいたいって言えばいいのに」

山崎が調子に乗ってそんなことを言うから足を踏んでやった。

「それにね、明日は足腰立たないくらい可愛がってあげたいから、休みにしておかないとお仕事辛いよ?」
「か、可愛がるってのは本来俺が言うべき台詞じゃ…」
「可愛がってくれるの?」

挑発するようにそう言って、ふっと耳に息を吹きかけた。

「ががが、がんばらせていたたっ…いただきます!」
「期待させていただきます」

顔を真っ赤にさせて照れながら噛んでしまう山崎が、可愛くて愛しくて堪らなくなった。そんな可愛い顔を見せてくれるなら、素直にデレるのもアリかな、とおもいました。