メリクリ


十二月の後半、街はどこもかしこもイルミネーションに包まれ幸せオーラ満開で、リア充が溢れていた。星のようにキラキラ輝く電飾たちを見るリア充と、闇のようにただ黒いだけの女人禁制の真選組。なぜ俺らが浮かれてはしゃぐ住人たちを守らなければならないのか解らなくなるのがこの季節だ。しかもリア充を盛り上げるかのように雪が降る。ホワイトクリスマスというやつだ。この単語を作ったやつは消し炭にしてやりたい。

「あーー、寒っ、くそ……」

俺もあのリア充共のように恋人の一人や二人いれば仕事だって休みが貰えて、今ごろあのように手を繋ぎ抱き締めあい肌を寄せあい温めあうのだろう。なぜ俺の隣には誰もいない。いや、いるけど、真選組の野郎たちが。この時期に隣に野郎がいても虚しくなるだけだ。

「もっと防寒するべきだった…」

電飾なんか眺めて何が楽しいんだ。俺はちっとも楽しくない。
街の見廻りを頼まれていたけど、どこを見てもリア充ばかりで腹が立つ。鼻からリア充を守って助けてやるほど俺の心は広くないから、リア充なんかではなく独り者をこの群れから探すことにした。
イラついていたせいでリア充ばかりが目に入っていたが、ちゃんと見れば一人寂しそうに凍えながら歩く奴もいるし、楽しそうな親子や友達同士もいるし、割りと色んな人がいることに気が付いた。

「あ…」
「さっきからぶつぶつうるせぇぞ山崎、あっち行け」
「え、あぁすいません」

独り言がやかましかったようで、仲間にすら追い払われた。だからついでに、今さっき人ごみの中から見つけた知り合いの元へと歩み寄った。むこうは俺に気付いていなくて、というかこの人ごみの中から地味な俺を見つけられるわけもないから、人ごみをかき分けながら近付いた。
すると、俺以外の男が彼女に近寄る姿を見つけた。どこの誰だあの野郎、なんて思いながら気付かれないように歩みを遅めて観察していたら、男の手に不審な物体を見つけた。銀色に光るそれは日本刀ほどの長さは無いが、鋭く尖った小刀だった。
クリスマスシーズンに気が立つのも解らなくは無いが、リア充でもない彼女を傷付けるのは許さない。男が彼女に近寄るのよりも早く、俺は人ごみをかき分けて男に駆け寄った。

「どけェェェ!!!」

地味な俺でも雰囲気を壊すような大声を出せば目立ったらしく、通行人たちは足をとめこちらを向いた。男も同様に俺に気付いて逃げようとしたが、すかさず俺は刀を抜いて峰を男の腕に降り下ろした。男の呻き声と共に小刀が地面に落ちる音が響く。通行人たちは悲鳴をあげ混乱しながら俺たちから離れていき、逆に真選組の皆が集まってきてくれて男をとり押さえてくれた。

「セーフ……」

皆のおかげで男は捕まり連行され、一時混乱に陥った人々にも冷静が取り戻され、次第に先程と同じ雰囲気に戻っていった。

「山崎、そいつ家まで送ってやれ」
「あ、はい!」

仕事してやったぜ、とイイ気になっていたら副長に新たに命令を下された。被害者になりかけた彼女に顔を向ければ、何が起こったのかいまいち把握できていないような、困惑した表情を浮かべていた。

「大丈夫?」
「大丈夫……なのでしょうか。私、何か悪いことしたんですかね……なんで狙われたんでしょう」
「いや、君が何かしたから狙われたとかじゃないと思うよ。この時期はああいう変なのが沸くんだよ、無差別の通り魔がさ」
「……助けてくれて、ありがとうございます。怖かったです…」

横島さんはため息をついて胸を撫で下ろす。無事に生きていてくれてよかった。あと少しでこの人にあの刃物が刺さっていたかと思うと寒気がする。今日ばかりは自分の活躍を褒め称える。

「用事ないならこのまま家まで送るけど」
「じゃあお願いします……今日はもうお家でゆっくり過ごします」
「あれ?それでいいの?」
「ええ。私の用事はもう九割方は済んでいるので」

どういうことなのか、聞いてみたかったけどただの真選組の下っぱな俺が、そこまで踏み込んでいいのかと留まってしまう。でも心の落ち着かない今の状態なら軽く答えてくれるのではと下心が芽生え、俺は口を開いた。

「用事って、何だったの?」
「人に会うことです」
「……でもさっき、誰か待ってたからつっ立ってたんじゃなくて?もう会った後だったの?」
「現在進行中で会っているので…もう満足です」

横島さんは少し恥ずかしそうに笑みを浮かべる。現在って、この人に会っている状態でいるのは俺じゃないのか。

「……俺?」
「今日のイベント、真選組の人たちが警備するって聞いたから…山崎さんにも、会えるかと思いまして」
「お、俺に会いに、ここまで来てたの?」
「そうです。ほんとは、私が山崎さんを見つけたかったんですけど……でも、私のこと見つけてくれてありがとうございます。本当に助かりました」

赤くなる頬をマフラーで隠しながら、手を握られた。俺は一仕事した後だから体温が上がっていたけど、彼女の手は冷えきっていて、少し震えていた。

「…こ、怖かった、ので、手繋いだままお家まで送ってもらってもいいでしょうか」
「よ、喜んで!」

クリスマスを女の子と手を繋いで歩けるだなんて、幸せすぎる。クリスマスありがとう。

「クリスマスに……山崎さんと手を繋いで、こんなに綺麗なイルミネーションを一緒に見て歩けるなんて思いもしませんでした」
「…本当にね。このイルミネーションってこんなに綺麗だったんだ…」
「今さら気付いたんですか?さっきまでだってここの警備していたならイルミネーションくらい見てると思ったのに」
「独り身の野郎がこんなの見ても憎いだけだよ。今はほら、横島さんが隣にいて幸せ感じてるから憎しみの感情なんて消えて純粋にあの電飾を楽しめるっていうか…」

ていうか、恥ずかしいことを言ってしまったような気がする。横島さんを見てみれば、この寒さにそぐわないくらいには顔を赤くさせていた。

「わ、私も、山崎さんが隣にいると、幸せ…ですよ」
「……そういうこと言われると、勘違いするけど、いいの?ていうか、素直に告白として受け取ってもいい?」
「いっ、今のが告白になるなら、さっきの山崎さんの言葉も告白として受けとりますけど!?」
「うん…いいよ」

ちょっとずるいけど、困らせるために軽く承諾してみた。

「や、山崎さん、私のこと好きなんですか?」
「…知らなかった?」
「知るわけないじゃないですか!ていうか否定しないってことは、好きってことでいいんですね!?自惚れますよ!?いいですね!?」
「うん、だからいいよって言ってるでしょ、好きだよ。ていうか横島さんも大概俺のこと好きでしょ、さっきから言ってること可愛すぎだから」
「かかか可愛いとか軽々しく言わないでください恥ずかしいです!」

まさか横島さんが俺のことそんなに好きだなんて。ここ夢の中だっけ。俺起きてるよね?

「…なんか、このまま帰るだけなのもったいない気がしてきました。山崎さん、このままデートしてもらえないでしょうか」
「別にいいけど……もう落ち着いた?大丈夫?」
「…山崎さんが隣にいてくれれば落ち着きますし、またさっきみたいなことがあっても、山崎さんが守ってくれますよね」

そんなことを言う横島さんの手はもう震えてなんかいなくて、体温だって上がってきていた。

「じゃあ…さ、俺が横島さんのこと守るから、ずっと隣にいてもらってもいい?これから先、ずっと」
「…私なんかでいいんですか?」
「横島さんがいいんだよ」

ここまで言わなきゃ解らないのか、心配性なのか、色々言わされて恥ずかしくなってきた。

「く…クリスマスだからって、雰囲気で調子に乗ってるわけじゃないですよね?」
「…俺ってそんなに信用ない?」
「そ、そんなことないです!好きな人に好きって言ってもらえるなんて現実味無いなって思っただけで、だから確かめちゃうだけで……私だって山崎さんが好きです!山崎さんがいいです!むしろ山崎さんじゃなきゃ嫌です!」

勢いに任せて恥ずかしいことを連発され、顔が熱くなるのがわかる。

「ありがとう。めちゃくちゃ嬉しい」
「私も…山崎さんが可愛らしく顔赤くしてくれて嬉しいです」
「ちょ、見ないで、恥ずかしい!」
「いいじゃないですか!減るもんじゃないし!」
「減る!俺の理性が減る!」
「構わないです!」
「何それ誘ってんの!?」

クリスマスなんかをこんなに幸せに感じるときがくるなんて。リア充の仲間入りしただけですごく得した気分だ。
これも全部、クリスマスを恨んだ通り魔のお陰だな。不謹慎だけどあいつには感謝しないと。屯所に戻ってまだ聴取を受けていたら、笑顔でメリークリスマスって言ってやるか。