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「うるせぇ」
「早く動いて下さい。仕事たまってんですから」
うるさい。いつもいつもいつもグチグチグチグチとうるさい第三席。俺は文句を言われなきゃいけないほどちんたらやっているつもりはない。
「悪いが俺は午後から任務だ。残りの書類はお前がやっとけ」
「………ふざけんな」
「あ?」
「え?どうか、しましたか?」
ふざけんなって声が聞こえたのは気のせいなんかじゃないが、ここは心の広い俺が許して聞かなかったことにしてやる。
「虚に殺されて帰ってきたら、代わりに副隊長をつぐので安心を」
「…安心できねぇな」
「早く行ってこい」
「言葉遣い」
「はいはい」
執務室を出る直前、いってらっしゃい、と小さな声が聞こえた気がした。振り返っても、優は書類の整理に取りかかってる。でも優の声だったよな?
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流魂街に行き、虚に出くわした。思ったより数が多くて、思ったより大きかった。
風死を始解して振り回す。
もっと大勢で来れば良かったな。そう思っても、時すでに遅し。
「がっ…」
隙をつかれて体を貫通した虚の爪。鋭い痛みに蝕まれた。
「てめぇ…」
「檜佐木副隊長!」
仲間達が虚をぶっ倒してから駆け寄ってきた。副隊長なのに情けない姿をさらしてしまった。だんだん頭がボーッとしてきて、真っ暗になった。
──
───
────
「…ので、……─、…です」
「はい…。──、…─。─」
うっすらと話し声が耳に入る。瞼が重い。ぼんやりとした脳のまま、聞き耳を立てた。
「…、ついていてあげて下さい」
「わかりました」
一人、部屋を出る足音。
一人、近づいてくる足音。
「馬鹿な人。馬鹿だからそんな風に刺されるんだ」
そうだ、虚退治に行って刺されたんだ。
「心配させやがって。アホ。青白い貧血馬鹿」
寝てると思って好き勝手言いやがって。寝たふりって言葉知らないのかこいつ。
「私より先に死んだら…ダメなのに」
不意にベッドの軋む音がした。たぶん優が俺の寝てるベッドに座った。
「副隊長、寝てる間に言っとくよ。私、ずっと副隊長の隣を占拠するから。誰にも譲らないから。だから、死んだら困る」
今までツンしかなかったくせにデレているのかこいつ。俺は起きてたらこいつのデレが聞けないのか。
「怪我なんかして、ふざけんな。死ね」
怪我するのはダメで死ぬのはいいのかよ、と、つい笑いそうになる。
「…不器用っていうのは、困るなぁ」
肩に手が置かれてのしかかる横島の重み。状況がわからないとドキドキする。なんだコレ。そろそろ起きた方がいいだろうか。
「言い訳は…。見舞いに来たら足を滑らせた、でいいか」
意味不明な言葉が聞こえて、唇に何かが触れた。触れた、というか、その、現在進行形で。チキンな俺のファーストほにゃらら。優の最後の言葉からして、事故ちゅーですまされるらしい。俺の初めては寝てる間に奪われた。というか、長い。
「…副隊長、私のこと嫌わないで」
再び、重ねられる唇。一度ならず、二度までも。こいつ何を考えている。
「…寝てる人って、つまんない」
つまんない、なんて言われたから目を開けた。優は驚いて離れようとしたが、逃げないように肩を掴んでやった。
「じゃあ起きてる奴なら、面白いのかよ」
「え…」
優を思い切り引き寄せてキスをした。
お前が先にやってきたんだからな。仕返しだ。
「副隊長、い、いいい、いつから…っ」
「お前が一人になってから」
「最初っからかよ…」
「寝込み襲ってんじゃねぇよ」
にやりと笑えば、優の顔が真っ赤に染まる。
「…好きなんだから、しょうがないでしょ」
「好きなら寝込みを襲っても良いのか」
「…」
「だったら、俺もお前の寝込み襲ってやるよ」
「!?…く、来るな」
優の顔は誘ってるようにしか見えなかったし、ものすごく、可愛く見えた。
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