気まぐれ


今日はKnightsのレッスン日だった。サボりがちな凜月くんも、自由気ままなレオくんもいて、五人が揃っていた。そのおかげか、泉くんの機嫌が見るからによさそうで、今日はただのレッスンだと言うのに、表情が柔らかく、笑みも溢していた。
みんなの歌やダンスを観ながら次の衣装を考える。ショコラフェスはバレンタインのイベントだから、それにちなんだ物にしあげないと。

「どう優?いいのできそう?」
「できるよ、絶対。宗くんに土下座してでも作り上げるよ」
「へぇ、いつになくやる気じゃん」
「レオくんと泉くんと私、もう卒業しちゃうしね。あとは心身削ってでも、やりきりたいの」
「寂しいなぁ、俺みたいに留年しようよ」

凜月くんは隣に座って肩に頭をあずけてくる。可愛いけれど、他の皆は真面目に歌って踊ってるんだけど。

「ちょっと!くまくんさぼらない!」

凜月くんの体温を感じながら私も手を止めていたけど、泉くんが不機嫌そうに凜月くんの腕を引いて立ち上がらせた。あぁ、今日はせっかく泉くんの機嫌が良かったのに。私が凜月くんを注意するべきだったな。
なんて思っている間にも凜月くんも練習に戻り踊り始めた。
卒業したら、こんな風に皆と過ごせなくなる。卒業後に合流するとしても、司くんは1年生だし、しばらくは集合できないだろう。せっかく仲良くなれたのに、寂しい。卒業前はすぐ憂鬱になってしまうから嫌いだ。今目の前の、やるべきことをやらないといけないと言うのに。

集中してデザインを練っていたら、ほっぺに何やら熱いものをくっつけられて「ひゃうっ」と声を出してしまった。いつの間にか皆休憩に入っていたみたいで、ほっぺに押し付けられたのは温かいココアの缶だとわかった。

「ちゃんと仕事しなよ」
「ちゃんとしてるよ!邪魔したの泉くんでしょ!」

軽く怒ってみたけれど、泉くんはどこか楽しそうにしてそのココアを私の手に握らせた。

「ふふ、話しかけたかっただけだよ」

泉くんは綺麗な笑みを浮かべながら返事に困る台詞を吐いて、練習に戻っていった。話しかけたかったって何、あの泉くんが?私に?いつもはそんなこと言わないくせに。

「…おいしい」

泉くんも、私と一緒で卒業が寂しかったりするのだろうか。アイドルとは違う私と、歩む道が違うことを、少しでも寂しいと思ってくれていたらいいのに。