水分補給



「あっっっっつい!」


夏なのになんで真選組の制服は上も下も完全防備で暑苦しいんだ。夏用の制服を作れってんだ。


「もう無理、死んじゃう、耐えられない」


こんなの着てたら熱中症になる気がして、上着を脱いでスカーフを外し、袖を捲り上げた。


「水分補給してりゃ何とかなんだろ」
「うっせー、てめぇタバコやめろ暑い。わざわざ暑いのに着火して煙もくもくさせてんじゃねぇよ、水ぶっかけっぞ」


脱いだ上着を腰に巻くと、腰回りが暑くなった。こんな上着なんか捨ててしまいたい。


「んで、次は何だ、どこ行けばいいんだ?…つーか、なんで土方てめーだけ水飲んでんだよ、私の分はどうした…」
「なめた口聞いてんじゃねぇよ、殺されてぇか」
「すみません副長、暑さで頭がやられてるんでその水を私にもよこしてください」
「買ってこいよ」
「この路地裏のどこに自販機があんだよ!ねぇよ!ふざけんな!」


調査のために一般人は使わない道を歩いている。大通りからは大分進んできたから本当に自販機もコンビニも無い。


「ちくしょう副長死んでください…」


私が本当に倒れそうだというのに。
尋常じゃない汗の量で、本気で自分が心配になる。副長より先に私が逝ってしまいそうだ。
少しでも涼しくなるようにベストも脱いだ。それでも暑さは変わらなかった。


「おい、透けてるからそれ脱ぐな」
「ああ?普段は女扱いしないくせに気にするのか。女として見てんなら優しくしろよ、水よこせよ…」
「先にそれ着ろ」
「チッ…」


暑いがベストを着直した。
服なんか透けてたって私は問題無いっつーの。


「…水、早く」


そんなことより、割りとマジで頭が朦朧としてきた。歩く気力すら無くなってきた。これだから夏は嫌いなんだ。
不本意だが、倒れそうになったので土方の服を掴む。


「熱中症か?」
「…知るか」


手にも力が入らなくなってきた。
土方がペットボトルの蓋を回してくれているが、飲むまでの動作までめんどくさいと思ってしまうほどだった。


「そんなんじゃ仕事にならねぇだろ。もう今日は終わりでいい、帰るぞ」


私が足を引っ張ってしまったということか。女だからというのを理由にしたくないが、体力が土方たちより劣っているからこうなったのは事実だ。私が弱い女だから。
迷惑をかけてしまったことに腹が立つが、同時にやるせなさが襲ってきて泣きたくなった。


「土方…ごめ、ん…ぅ」


顔を上げると、予想以上に近くに土方の顔があり、ぶつかった。口内に流れてくる少しだけ冷たい無味の液体。あぁ水か、と思い飲み込んだ。


「…つーか、何セクハラしてんの」


少しだけ冷静を取り戻して恥ずかしくなり、手の甲で唇を拭う。


「勤務時間外だから気にすんな」
「…意味、わかんね」


頭が痛くなってきて座り込む。水なんか飲んでも汗として体外に出てしまう。これはもうそれなりの処置をしてもらわなきゃダメみたいだ。


「土方…水、残り全部ちょうだい…」


ペットボトルの中はあと三分の一ほど水が残っていた。さすがに鬼の副長でも、今の私には優しくしてくれるだろう。
副長はしゃがんで水をわけてくれたのだが、やり方は先程と同じく口移しだった。この際何でも良いと思い受け入れたが、水が無くなっても土方はその行為をやめなかった。
段々と息が苦しくなってきて、力なく土方の胸を押すと、唇を離してくれた。


「もう、帰る…」
「そうだな、お前のおかげで仕事無くなったからな」
「…ごめん…」
「今ので満足したから許してやるよ」


元気になったらぶん殴ってやる。私の純情を奪いやがって。


「大人しくしてろよ」


土方が私の方に手をのばして近寄ってきたから、体を強張らせてぎゅっと目を瞑った。すると軽々と体を持ち上げられたので、驚いて目を開けた。可愛らしい女の子にだけ許される、お姫様だっこを私なんかがされていた。


「お、おい…何してんの」
「あ?お前が言ったんだろ、優しくしろって」


確かにさっき、女として見てんなら優しくしろと言った気がする。だとすると何だ、土方は私のこと女として見てたのか?だからあんなことやこんなことまでしてくるのか?


「帰ったらみっちり優しく看病してやるよ」


アホらしいことを言いながら不敵に笑う土方このやろう。こんな奴に看病なんかできる訳がない。
でももう言い返す気力さえ残っていなかった。
それに、土方になら看病でも何でもされても良いかな、なんて思ってしまった。