放課後の教室


「なんだ、まだいたのか」

生徒会の会議を終えて、鞄を取りに教室へ戻ったら、暇そうにスマホをいじっている横島がいた。

「そろそろ帰ろうと思ったんだけど、土方ももう帰る?」
「あぁ、帰る」
「じゃあ私も」
「待ってたんだろ?」
「違うもん」

横島はスマホを鞄に放り込み、背伸びしてから近寄ってきた。

「ていうか、待ってたと思うんならさ、待っててくれてありがと、とか何かないの?」
「待っててくれなんて言ってねぇ」
「…ばか」

拗ねたように頬を膨らませて、胸元に頭突きしてきた。そのまま動こうとしないから頭を撫でてやったら、横島は満足したのか距離をとった。

「土方さぁ…」
「何だ」
「…」

しかし顔を上げた横島は、不機嫌そうな顔で俺を睨んできた。

「行かないのか?おいてくぞ」
「…土方、優しくない」
「そんなの前から解りきってんだろ」
「土方、可愛くないし、冷めてるし、適当だし、めんどくさそうだし、うざいし、顔怖いし、何にもしてくれない」

そんなに悪口が言えるくらいなら近寄らなきゃいいだろ、とは思うが言うと面倒なことになりそうだから黙っておいた。

「惚れたのは私の方だからあんまり強く言えないけど、もうちょっと優しくしてくれてもいいじゃん…。なんか、私ばっかり土方のこと好きみたいで、面白くないんだけど…」
「…悪いな、面白くなくて」
「お、怒んないでよ…」
「怒ってねぇよ」

これでも他の奴よりは優しくしてやってるつもりだ。優しくしろと言われても、これ以上どう扱えばいいのかわからない。

「…土方、本当に私のこと好き?」
「あ?」
「だってだって、付き合ってる割には、土方から何にもしてくれないんだもん…言動も態度も今までと何にも変わんないから、だから、その…」

横島は赤面しながらもじもじする。何か言ってやろうかと思ったが、もう少し観察することにした。

「…もっと、イチャイチャしようよ」

不機嫌そうな顔をしているくせにそんな可愛らしいことを言う。いつもはそんなこと言わないから珍しくて、熱でもあるんじゃないかと思って横島の額に手を当てた。

「何…」

よほど恥ずかしかったのか、額に汗をかいていた。

「お前が言い出したんだから、俺が何しても文句ねぇよな」
「え…う、うん」

額に当てていた手を下ろして横島の目を隠し、一瞬だけ唇に触れた。恥ずかしくなってしばらく目を隠したままにしていたら、手をどかされた。

「…私今、泣きそうなくらい嬉しいんだけど。だけど、さっきまでモヤモヤしてたの全部ぶっ飛んでスッキリしたから、自分が単純すぎて悔しい…」

横島は恥ずかしそうに口元を手で隠した。

「単純でいいだろ。深く考えるからモヤモヤするだけだ、帰るぞ」
「…待って」

勢いをつけて胸に飛び込まれ驚いたが、平然を装って横島を抱き締めた。

「もうちょっとだけ、このままで居させて…」
「…しゃーねぇな」
「嫌ならやめてくれていいけど…」
「…嫌なわけねぇだろ」

嫌だったらこんな行動許す訳ねぇだろ。いちいち言わなきゃわかんねぇのか。

「好きに決まってんだろ」

言ってみて急激に恥ずかしくなり、耐えられなくなって横島を離して急いで教室を出た。あのままだと、くそ煩くなった鼓動がばれそうだった。

「ま、待ってよ!」

横島は追いかけて来たが、こんなに熱くなった顔を見せられる訳がない。だが横島はすぐに追いついて、俺の手を不器用に握ってきた。

「行けるとこまで、一緒に帰ろっ」

横目で横島を見てみると、顔を真っ赤にさせて俺の顔を見れないでいた。

「家まで送ってやるよ」
「…ずっと手繋いでてもいい?」
「…好きにしろ」
「うん!」