全部酒のせい


ライブの打ち上げでお偉いさんたちにお酌をした日、酔わされて気付けば朝になり、目覚めると知らない部屋にいた。

「お目覚めですか」

声をかけられて横を見れば、隣に寝転がりながら頬杖をついて私を見下ろす茨くんがいた。

「…え?」
「おや、状況が把握できていませんか?ちなみにここはラブホテルという所ですね。自分も初めて入ったので、昨夜は緊張しましたよ」

嘘だそんなまさか。酔った勢いで茨くんとラブホで寝たというのか?茨くん、服着てないみたいだし。ふと自分の肌も衣服を纏っていないことに気が付いて布団を引っ張り上げた。

「な、なんでラブホ」
「貴方が酒くせぇ野郎共に酔い潰されてセクハラされていたので助けたんですが?家に送ろうにも家なんか知らないし、自分の寮には連れ込めないしで困ったもんですよ」
「それはごめんなさい…ありがとう…。それはそれとして、なんで裸…」

答えなんか聞かずともわかっていた。さっきから下腹部の妙な痛みというか違和感を覚えていたからだ。

「貴方が誘ったんですよ。訴えないでくださいね」
「……嘘」
「一人じゃスーツも脱げない、シャワーも浴びれないなんて貴方を介抱するのは大変でしたよ。スーツのまま寝ろと言ってもシワになるから脱がせてとか言うし、シャワーも明日にしろと言っても野郎共に触られて気持ち悪いから絶対浴びると聞かなくて」
「それは…あの…ご迷惑おかけしました…」

私なら言いそうなことだ。言われて思い出したが、お偉いさんたちに髪を触られたり手を握られたり太ももを撫でられたりした気がする。思い出さなきゃよかった。

「まぁ迷惑を被りましたがお礼はして頂けたので、こちらとしては役得でしたがね。昨晩のこと、無かったことにしたいならそうしてあげますがどうします?自分としては、ここで終わりにはしたくありませんが」

そう言いながら、茨くんは私の頬を撫でてきた。なんでそんなに優しい手付きで私に触るの。都合よく差し出された体を頂いただけで、私なんかに興味無いでしょ。

「…茨くんのセフレになんてなりたくない」
「おや、他の男がよかったですか」
「そういう問題じゃない」

時間が経つにつれ頭も冴えてきて、なんとなく昨晩のことも思い出してきた。はしたなく誘ってしまったが、茨くんに抱かれて嬉しかったし、気持ちよかった。

「茨くんは…セフレになりたいの?」
「なれるなら是非とも。顔も体も申し分無いですし、体の相性も良かったですしね?」

茨くんのこと、前から気に入っていたのになんだか悲しくなってしまう。貶されているわけでもないのに、胸が苦しくなる。

「どうしてそんな泣きそうな顔をするのです?好きなら好きと言ってくれればよいのでは?」
「…だって、茨くん私のこと好きじゃないでしょ…?」
「どの口が言うんですか。昨晩のこと、さてはほとんど覚えていませんね?」

頬を撫でてきていた手は私の肩を押さえつけ、茨くんに真上から見下ろされた。

「好きだと言わせたくせに忘れるなんて、酷いお人だ。好きでもない女を、誰かに見られる危険を犯してまでラブホに連れ込んだりしませんよ。ワンチャン抱ければいいと思っていただけなのに、貴方の方から好きだと言われ誘われて俺の想いまで言わされて、朝になったら忘れましたなんてたまったもんじゃない」
「わ、私、好きなんて、」
「おやぁ、もしや性欲を発散させるために告白ごっこをさせられたんですかね?これは一本取られました!」
「ち、違う!ほんとに、嘘じゃないから、言うつもりなかったのに…しかも、酔った勢いなんて…」

仕事の関係を崩したくなくて、危険に思われて距離を置かれたくなくて絶対に好きだなんて言わないと決めて、そんな想いも封印してきたはずなのに。酒のせいで全部白状してしまったなんて恥でしかない。

「じゃあ、今改めて言ってください。もう酔いは覚めてますよね?」
「さめてる…」
「自分は、優さんのことが好きですよ。貴方は?」
「わ、私も、茨くんが好き」

真っ赤になってしまっているだろう顔を真っ直ぐ見られているのも恥ずかしかったけど、やっと茨くんに想いを伝えられ、想いが通じあったのだ。これほどまでに嬉しいことはない。

「ありがとうございます。酒のせいにして抱いてしまってすみませんでした」
「こちらこそ…軽率にアイドルを誘ってしまってすみませんでした…」
「ほんとですよ。あの場にいたのが俺だから良かったものの、他の奴らが介抱していたらどうなっていたことやら」

あぁ、叱られている。でもそれは私の身を案じてのことで、嬉しくて笑えてしまう。

「まぁでも、貴方が手に入ったのでよしとしましょうか。昨晩のこと、記憶にないのはもったいないのでやり直しませんか?湯は張っておきましたので、すぐ入れますよ」
「へ」

茨くんはバサッと勢いよく掛け布団を捲るので、全身が空気に触れてひやっとする。というか何も着てないのが恥ずかしくて隠そうとしたのに、茨くんは私をお姫さま抱っこしてベッドから降りた。

「ちょ、ちょっと!」
「昨日のように、自分が懇切丁寧に貴方を綺麗にして差し上げますので安心してくださいね!」
「忘れてごめんなさい!」

馬鹿に広い浴室に連れ込まれ、宣言通りにめちゃめちゃ丁寧に全身をくまなく洗われた。「昨夜と違ってきちんと座っていて貰えるので洗いやすいですね」なんて言われて、恥ずかしさで死にそうだった。