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カフェシナモンで休憩を取りながら雑誌を広げていたら、不意に雑誌に人影が被ってきた。何だろうと思い顔を上げれば、麗しい創くんと視線が交わり、にっこりと笑顔を向けてくれた。
「優さんお疲れさまです」
「お疲れさま!ごめんね、雑誌見てたから全然気付けなかった」
美味しい紅茶を飲むよりも、甘いものを食べるよりも、雑誌の特集を読むよりも、目の前に創くんがいて微笑んでくれる方が百倍癒されてしまう。この後の仕事も頑張ろう。
「いいんですよ、集中してるみたいなのでお邪魔しちゃ悪いかなと思って、声かけるか迷っちゃったんですけど…」
「全然邪魔じゃないよ!今から休憩?ここ座る?」
「ありがとうございます。少し時間ができたので来たんですが、ちょうど優さんにお会いできて嬉しいです」
「わ、私も嬉しい…!」
創くんは高校の頃からめちゃめちゃ懐いて慕ってくれていて、感情表現が素直オブザイヤーを毎年受賞して金メダルをあげたいレベルだ。
私は素直に嬉しいとか好きとかなかなか言えない方なので、純粋に創くんを尊敬している。
「ご注文は後の方がいいっすかね?」
「あ、じゃあミルクティーをお願いします」
「了解ッス〜〜」
ニキくんが創くんの分の水とおしぼりを持ってきてくれて注文まで聞いてくれた。仕事が早くて素晴らしい。
「雑誌、この前のブライダル特集ですよね?皆さんかっこよかったですよね」
「そうなんだよね〜、あんずちゃんの人選も流石って感じ。私もブライダル特集したかったな〜来年は私が企画させて貰おうかな…」
「…優さんだったら、誰を人選するんですか?」
「ん〜〜、難しいね。やっぱ話題作りとしてまずジュンくんでしょ。ジューンブライドだし」
「ふふ、漣先輩には申し訳ないですけど、良くも悪くも話題になりそうですね」
あとはそうだなぁ、薫くんとかかな。私も英智くんを選びたいところだけど新鮮味は損なわれるし、弓弦くんかな。巽くんとかも似合いそうだし泉くんもいいし、ああやばい、みんな白タキシード似合っちゃう、企画練るまでに絶対決めないと。
「友也くんも良さそうだね?何でも着こなすし、Ra*bitsにもそういう大人のイメージの仕事してみてほしいし」
「友也くん、かっこいいですしね。僕も見てみたいです」
「考えるの楽しいな〜。結婚したい!ってファンの皆が思ってくれるような特集にしなきゃだもんねぇ」
わくわく考えていたらニキくんが創くんのミルクティーを運んできてくれた。
「間違ってもCrazy:Bからブライダル企画に呼ばないでくださいね…?燐音くんなんか特に、結婚相手が苦労して可哀想ッスから」
「はは、結婚詐欺師みたいとか言われそうだしやめとくよ」
「それがいいッス」
意外とこはくくんなら真面目に取り組んでくれそうだから、考えるだけ考えてみるのはありかもしれないな。
「あの、優さん」
「ん?」
「相手が僕では、結婚したいって思って貰えませんか…?」
しょんぼりした様子でそう聞かれ、胸が苦しくなる。結婚式の白くて眩しいイメージに創くんはぴったりではあるが、ブライダル特集となると話は別だ。なんというか、創くんを結婚させたくない。純真無垢のままいてほしいから、結婚だとかそういう女のイメージがつきまとう仕事を与えたくない。
「たしかに僕は友也くんみたいにかっこよくないですし、光くんみたいに明るくもないですし、に〜ちゃんみたいに頼もしくないですけど…」
「ま、待って待って、創くんには創くんの良いところいっぱいあるからね?そんな卑屈にならないで」
「…こんな僕では、結婚したいなんて、思えないですよね」
いやいやいや、何だ、どうして創くんがこんなにしょんぼりしてしまうんだ。ブライダル企画の候補として名前を挙げなかったから?そんなにもブライダルに参加したかったのだろうか。創くんも結婚に夢を持っていて、結婚したいと思うような人がいるのか?そんなの、私はまだ受け止めきれない、やめてほしい。創くんが誰かのものになるなんて考えられない。
「…創くんは、優しいし、可愛いし、いつも笑顔で周りを癒してくれるし、場の雰囲気も和ませてくれるから居てくれると助かるし嬉しいよ。きっと結婚したら和やかで癒される家庭にしてくれるだろうし、いっぱい幸せにしてくれそうって思うよ。もう仕事も安定して売れっ子の紫之創だし、人としてもすごく魅力的だから、将来結婚できる人はどう考えても世界一幸せだと思う。だからその…ブライダル企画、やりたければきちんと検討するからね」
創くんのしょんぼり顔なんて見たくないから、照れ臭いなんて気持ちは押し殺して褒めた。創くんが誰かと結婚してしまうという考えたくもない未来を想像したら円満夫婦しか思い浮かばなくて、なんだか悲しくなってしまう。
「本当ですか?」
「本当だよ!だからあの、そんな落ち込まないで?」
「あ…すみません、気を遣わせてしまって。ありがとうございます」
創くんは雑誌を開くため押さえていた私の手を、両手で包み込むように握ってきた。
「僕は…優さんに世界一幸せになって貰いたいです」
ぶわ、と顔に熱が集まり変に汗がわき出るのを感じた。創くんも真っ赤な顔でそんなことを言ってくるし、わけがわからない。
「それは、つまり……」
「……」
創くんと結婚したら世界一幸せだと確かに言った。つまり今のは、何、プロポーズ?私創くんと付き合ってもいないのに。ブライダル企画のための予行練習だとしても今の流れで言われてそのまま真っ赤で黙られると、本気にとってしまいそうなのだけど。
「ご、ごめんなさい、段階を飛びすぎちゃいました。結婚のイメージで僕を挙げてくれないのが悔しくて……、今の、忘れて欲しいです」
焦って手を離そうとするが、逆に創くんの両手を掴んで離れられないようにさせた。
「段階を踏んでたら…何言うつもりだったの?」
「ええっ!?そ、それは…」
恥ずかしさからか、創くんは涙目になってきたし、あまり踏み込むのは怖い。でもこのまま創くんの手を離したら、何も聞けないままになりそうで。
「…ここでは、言えないです。でもお話聞いてくれるなら、今晩、ご飯ご一緒しませんか…?」
今日は残業する予定だったけど、こんな状態の創くんを放置して仕事なんて集中できやしないだろう。
「…いいよ。私もその…覚悟を、決めておくね…?」
「は、はい」
結婚と創くん。隣に並べたくないワードで、ブライダル企画に採用したくなかった。だが実際に無理やり想像してみればそれは魅力的でしかなくて、プロデューサーとしては世間に創くんでブライダル特集を組むのも全然アリだった。でも私は、私としては、創くんが誰かと結婚するのは嫌なんだ。
「よ、横からすんません」
創くんのことしか見えていなかったせいで、横から声をかけられてびっくりして慌てて創くんの手を離した。ニキくんは照れて頬を赤らめつつ、私たちの間に甘くて美味しそうなケーキを2つ置いてくれた。
「頼んでないけど…」
「あっ余計なお世話だったらすんませんッス!いや、あの、あれッス、応援の気持ちッス…僕のおごりなんで、召し上がって欲しいッス」
応援、なんて言われてしまい余計に顔が熱くなる。私たちはまだそれっぽい話は何も進めていないのに。
「…ありがとう、美味しく頂きます」
「ありがとうございます」
3人で照れまくってるこの空間は何なんだ。穴があったら入りたい。
ニキくんはそそくさと奥の厨房に身を隠してしまった。
「わぁ、美味しい」
ケーキを食べて幸せそうに微笑む創くんが可愛くて、ブライダル特集なんてものに創くんが出て、創くんとの結婚を他の人に想像させることも嫌だと思ってしまった。プロデューサーとして失格でしかない。
「美味しい…」
「ふふ。優さんと居ると、こういう思いがけない幸せが舞い込んでくるので嬉しいです」
こんな付き合ってもいない段階で、こんなに幸せそうな姿を独り占めしたいと思ってしまう私を叱って欲しい。誰とも結婚してほしくないなんて思うと同時に、さっき創くんとの結婚を想像してしまったせいで、そこに居るのは私でありたいと思ってしまった。
「私も…そんな幸せそうな創くんを見られるだけでも幸せだよ」
「…じゃあ、一緒にいたらそれだけで幸せになれちゃいますね?えへへ」
本当はこの幸せな気持ちをファンにもお裾分けしてあげなければならないのだろうけど、卑しい私にはそんな仏のようなことはできそうにない。誰も許してくれなくても、自分の幸せを望んでもいいのだろうか。世界一幸せにしたいと創くんが言ってくれているのだから、私はそれに甘えて、応えて、世界一幸せになりたい。
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