不純異性交遊


「なぁ弓弦…、相談があるんだけど」

生徒会の業務をしていて二人きりのタイミングで、衣更さまより相談を持ちかけられた。ちょっと観て欲しい、などと言われて近寄れば、男女が行為に及んでいる場面の盗撮動画のようなものを見せられ、返す言葉もなく衣更さまの顔を見てしまった。

「違う!俺が撮ったんじゃなくて!ていうか、論点はそこじゃなくて…!これ、校内なんだよ」
「…左様でございますね。見たところお二方とも夢ノ咲の男女かと…、場所は…どこかの教室でしょうか」
「そうなんだよ、なんか匿名で生徒会宛にメールでこれ送られて来ててさ。校内でこれはヤンチャ過ぎて…でも注意するにも誰だかわかんないし、とは言え特定のために何度も見るのも罪悪感というか、背徳感というか、あれが…」

衣更さまは照れまくっていて、対処に困っているらしい。ここはわたくしが見回りでもして見つけ次第処分をするべきだろうか。

「そういうことでしたら、弓弦にお任せくださいまし。この生徒に少しだけ心当たりというか、見覚えもあるので…しばらくマークしてみます」
「ほ、ほんとか!?誰…って、いや、いい、やっぱ聞かないでおく…。あ、はっきり解ったときにはそりゃ誰なのか教えて欲しいけど」

健全な男子高校生らしい動揺を見せられても困る。とにかくまた事に及ぶ場面に出会えばいいだけだ。動画の色合いからして夕陽を浴びる時間帯なことは解るし、そこを狙えばいつか見つけられるだろう。



「ぁ…待って、や、」
「嫌じゃねぇだろ…」

ほぼ毎日、放課後の学院内を気配を殺して見回りしていたら、とある空き教室からこそこそと喋る男女の声が聞こえてきた。アイドル科の空き教室から女の声がするという時点で怪しさしかなくて、扉に耳を近づけてみた。

「もっと、気持ちよくして…」
「はぁ?こっちはもう準備万端なんだよ」
「ん、う…嫌い…」
「俺だって別に好きでも何ともねぇよ」
「ああっ」

扉の隙間から覗き見てみると、女生徒は机に体を預け、男の方に背後から身を寄せられていた。腰を振り始めたし止めるタイミングを誤ってしまってため息をつきたくなるが、それでバレてはどうしようもないので我慢した。

「あ〜〜…最高、お前に入れるのだけは最高に好き…気持ちいい…」
「うっ、あ、っ、いぃ…」
「お前も気持ち良すぎて喋れねぇなぁ」

男の動きが速くなってきて、ああもうそろそろだろうなというタイミングで、扉を開けてやった。

「はぁ!?おま、今!?」
「失礼致します。貴方たちの顔は覚えたので逃げられませんよ」
「ゆ、ゆづ…」
「あっ…」

男の顔と様子からして果てたようだが、なぜ今。他人のそんな情けない姿を見たくないがために割り込んだというのに。

「お前人に見られてキツくしてんなよ馬鹿!」
「ち、ちが…」

ずるずると抜け出たソレには液体の溜まったゴムがついていたが、あまり良いものではないので目をそらした。顔は覚えたと言ったはずなのに、男は急いでズボンを直して教室を飛び出て行った。

「貴方も、早くお尻くらい隠してくださいまし」
「ん…」

めくれあがったスカートをおろし、恥じらいのせいか床に座り込んでしまった。

「まさか校内で不埒なことをしていたのが優さまだとは思いませんでしたよ」

後ろ手で扉の鍵をかけ、優さまへと歩み寄る。赤らんだ顔で瞳を潤ませたまま見上げられ、少しだけ怯む。

「…ごめん」
「アレは貴方の恋人ですか?」

すぐに首を横に振られてびっくりする。大人しい性格だと思っていたのに、恋人でもない男と関係を持っていたとは。

「あれ…違うの、あの…校内アルバイト…なの…」

自分の耳を疑った。自分達が二年生のとき共に真面目に過ごしてきた生徒が、性行為を校内アルバイトとして行い資金を稼いでいただなんて。

「うち貧乏だから…英智先輩みたいに自費でライブとかにお金かけれなくて…、でも皆に良い衣装着て良いライブして欲しくて…ぼやいてたら、これ教えてもらって…。最初はほんとに嫌だったんだけど……えっち、気持ち良くて…それでお金貰えるから…どうでもよくなっちゃって…」

こんな話、衣更さまが聞いたら卒倒するんじゃないか。優さまのことを純粋無垢な天使だと思っているふしはあったようだし。

「わたくしは…真面目な貴方が好きでしたよ。自分の行いが正しいことなのかどうか、聡明な貴方なら少し考えればわかることでしょう。お困りのようなら相談して頂ければ、稼ぎの良い校内アルバイトくらい紹介致しますよ」

当然のことを言ったまでなのに、優さんはぼろぼろと泣き始めた。

「弓弦くんに好きって言って貰えるなら、こんなことするんじゃなかった…」
「ええ、存分に後悔してくださいまし。これからは全うに生きてくださいね、わたくしでよろしければサポートさせて頂きますので」

あやそうかと思ったのだが、ブラウスははだけて下着が見えているし、足には脱いだショーツが引っ掛かっているし、近付く程に触れがたかった。

「私が、アイドルをサポートしなきゃいけないのに…」
「その通りでございます。ふざけたことをしている暇は貴方には無いはずですよ。もうこんなことはしないと、約束して頂けますか?」

指切りでもさせようと思い、しゃがんで小指を差し出した。

「…こんなこと、って、学校でえっちしてお金稼いだこと…だよね?えっちしちゃだめとかでは…ないよね…?」
「恋人の居ない貴方が誰と致すのかは存じませんが、正常な思考で考えて行動して頂ければよろしいかと」
「ご、ごめん、変なこと聞いて…」

差し出した指に小指を絡められたのだが、優さまの指は熱を持っていて、触れるんじゃなかった、なんて思わされてしまう。

「…私のこと、止めてくれてありがとう。もう…嫌いになったよね」
「少々驚きはしましたが、嫌いになどなっていませんよ。貴方がここまでしたのにも、それほどの理由があったのでございましょう」
「…真面目な私に、戻れたら、好きになってくれる…?」

彼女の求める『好き』がどういう意味なのかにもよるのだが。なんとも答えにくい質問だ。

「そうでございますね。貴方が胸を張って真面目なプロデューサーだと名乗れるようになったら、惚れてしまうかもしれませんね」

少し落ち着いてきた顔色が、わたくしの言葉によって再び紅潮していくのが見てとれる。これはどうやら、わたくしに惚れているため好きになってくれるかなどと聞いたのだろう。

「ごめん、あの…真面目になるの、明日からとかじゃだめかな…」

などと言いながら小指だけでなく他の指もわたくしの手に絡んできて、しゃがんで床についていた膝から太ももへと撫でるように手を這わせてきた。

「煽るのがお上手なようで?お見事でございます」
「私…弓弦くんのこと、ずっと好きだった。三年生になって科もクラスも離れて、全然会えなくて寂しくて…校内アルバイトで犯されながら、ずっと弓弦くんのこと考えてた…」

体を撫でてくる手にぞくぞくしてしまうが、必死に耐える。このままでは、自分も校内で不埒を犯す同類になってしまいそうで。

「…さっきも、ガンガン突かれながら弓弦くんに見られて弓弦くんの声聞いて、イッちゃった」

聞いてもいないことを恥じらいながらぺらぺらと喋られ、こちらとしてもいけない部分が熱を持ち始める。このままでは自分まで、彼女の熱に飲み込まれてしまう。

「…わたくしも、抜く時はいつも優さまのことを考えながら抜いていますよ」
「へ…、えっ!?ぬ!?」
「男を見たことも男に触れられたことも無いようなその顔の純粋な貴方に夢見て抜いていたのですが、実際はとんだビッチでございましたね。認識を改めるとしましょう」

ビッチだと言えばおさまっていた涙もまた流れ始め、ひどく悲しそうに唇を噛んでいた。

「ビッチで…えっちだと、やだ?」
「弓弦は一途な愛しか受け付けられませんのでビッチはお断りでございます。ただ…えっちな貴方に興味はありますよ。それはもう、今すぐ犯したいほどに」
「え…あ…じ、じゃあ…」
「ですが、ここは学校の中ですし、わたくしたちは学生の身でございます。間違いでも犯してしまったら自分一人で責任を負うこともできませんし、fineの皆様にも迷惑をかけてしまいます」

彼女の物欲しそうな顔と手付きがいやらしくて、つい意地悪を言ってしまう。ここが学校じゃなかったら、すぐに犯してしまいたかったのは本心だ。

「卒業してわたくしたちが社会人になれるまで、他の男と関係を持たずに過ごせたら、その時は弓弦と熱い夜を過ごしましょう」
「えっちなお誘いだ…」
「いかがでしょう、我慢できそうですか?」
「……できない」

我慢させるつもりだったのに、体を撫でてきていた手が股間へと降りてきた。軽くたってしまっていたのがバレてしまい、彼女は目を丸くさせてわたくしを見つめた。

「…えっちしよ」

つつつ、と指でなぞられる感覚にぞくぞくする。弓弦は悪い子に育ってしまいすみません、と心の中で姫宮家に謝罪をし、優さまに口付けた。するとすぐにベルトを外される音が聞こえ、自分も彼女のブラウスを捲って下着のホックを外して肌に触れた。

「ん、はぁ…本物の、弓弦くんだぁ…」
「えぇ、本物でございます。間違えないように覚えさせたいところですが…生憎ゴムは持ち歩いておりませんので、挿入はできかねます」
「私、ある、使って」

そう言うとスカートのポケットからゴムを取り出して、わたくしのモノに取り付け始めた。そんないつでも取り出せるところになんてものをしまっているんだろうか。

「もう…いれるのですか?わたくし、貴方に触れ足りないのですが」
「…ご、ごめん…弓弦くんと、はやく繋がりたくて…」
「…いけない人ですね」

こうなってしまうまで、何度、何人の男に抱かれてきたのだろう。考えるだけで目眩がしそうで、早く忘れてしまおうと思い、椅子に腰かけて優様の手を引いて立たせ、自分の上に跨がらせた。

「ふかふかのベッドでもあれば貴方を組強いてガンガン犯してしまいたかったのですが…床では背中を痛めまうので、この体勢でお許しくださいまし」
「いいよ…これでも、大好きな弓弦くん見ながらえっちできるもん」

心底嬉しそうなとろけた顔でわたくしを見つめながら、腰をおろして深く深くへと挿入させられた。わたくしとしてはまだ触れていなかったのに、充分なほどに濡れていた。



翌日、衣更さまには現場を抑えて厳重注意をしておいたと報告をした。放課後の各教室の鍵の管理と、プライバシー保護の観点から教室内ではなく廊下に監視カメラを取り付けることを提案した。これでもう、きちんとした申請をしなければ空き教室に忍び込んで乱交などできないし、彼女がプロデュースでもなく男とただどこかの教室に入るところを見つけられれば注意することもできる。

「女生徒の方には二度としない、と誓わせたのでもう大丈夫かと。男子生徒の方は逃げられましたが顔と名前は解りますので、次見つけ次第それ相応の処罰をしてもよろしいかと」
「そうか…なんか、大変な仕事させちまって悪かったな。今度なんかお礼でもするよ」
「結構でございますよ…と言いたいところですが、そうですね。せっかくなので、生徒会に送られてきた動画だけ戴いてもよろしいですか?」
「えっ!?」

素直にお礼を要求してみれば、衣更さまは目を丸くさせて頬を赤らめた。

「次は無いですよと脅しておいたのでもうすることは無いでしょうし、ついでに生徒会に来たメールは削除しておいて貰えると助かります」
「メールを消すのは構わないけど…その、弓弦に送る意味は…?」
「わたくしも健全な男子高校生ということでございます」
「そ、そうか…。こういうのは削除して終わりにしておきたいけど……、俺たちだけの内緒だからな?弓弦だから大丈夫だとは思うけど、流出なんてしたら夢ノ咲の評判に関わることだし」
「存じておりますよ」

これはただ、これ以上衣更さまなどの他の男に見せたくないというだけの独占欲だ。この動画を送信してきた生徒のスマホにはデータがあるはずだが、わざわざ生徒会宛に送ってきたくらいだからこういう乱れた風紀を正したい側の人間だろう。そう信じて、唯一この動画が手元にあることは多めに見てあげましょう。

「他の生徒らもこのようなことをしていないか、しばらく見回りは続けますね」
「あぁ、ありがとうな。助かるよ。こんなこと仙石や姫宮たちには頼めないからさ」
「ぼっちゃまにはまだ早すぎますからね。目に入れさせないためにも、頑張りますよ」

ぼっちゃまに見せないためにも、優さまを品行方正にするためにも。わたくしとしかもうしないと約束させて、気を失いそうになるくらいに果てさせた。あれでもまだ他の男を求めたら、その時は学院のためにも、ぼっちゃまの純心のためにも、学院から切り捨てるしかない。裏切るような人間は、仕事仲間としても恋人や友人としても傍に置いておきたくない。この動画は、その時のためにわたくしの手元に残しておきます。まぁ、たまに観て楽しむくらいはしますけどね。