風紀委員


「おいそこの女、ちょっと止まれ」
「え?」

風紀委員の職務を執行すべく、一人の女子に声をかけた。
そいつは明らかに他の女子より短いスカートに、校則違反のニーハイソックス、更にネックレスやピアスなどの不要物を身に付けていた。

「わわっ、土方くんだ…どどどどどうしたの?何か用?放課後なら暇だよ?」
「聞いてねぇよ。俺のこと知ってるっつーことは、風紀委員だってことも知ってんだよな?」
「うん、知ってるけど…何何何?土方くんのことなら誕生日も身長も好きな食べ物も靴のサイズも知ってるよ?」
「いや、それはなんで知ってんだ」
「えっ、あ、いや、あっはは…」

その女子は慌てて誤魔化しながら目を泳がせる。堂々と校則違反をする割には気が強くないようだ。

「そ、そんなことより!土方くんが何の用なの?ナンパ?私3年C組の横島優です、好きな食べ物はカツ丼…ショートケーキです!彼氏いません!」
「だから何だよ。とりあえず名前は覚えたからな、もう逃げられねぇぞ」
「へ!?逃げられないって…ひ、土方くんって意外と独占欲強いんだ…えへっ、でもそれも悪くないかも…」

横島はどういう思考回路をしているのか頬を染める。この会話のどこに照れる要素があるというのか。
とりあえずこいつが校則違反をしている意識が無いようだから、教えられたクラスと名前をメモ帳に書き込んだ。

「私の名前メモってる…なんで?」
「忘れたら困んだろ」
「私の名前って土方くんの中でそんなに重要なんだ…!もし忘れたらまた聞いてね?土方くんになら何回でも名乗っちゃうよ」

なんでこの女はこんなに嬉しそうなんだ。あとで呼び出す用にメモっただけだってのに。あんまり反省しないようなら本当に放課後呼び出して反省文書かせてやろうか。

「本題に入るが、まずスカート短ぇよ。あとなんだその靴下、校則は膝下の白ソックスだろうが」
「え…ダメだった?私の足だとこの長さが一番綺麗に見えるはずなんだけど…見苦しかったかな」
「校則守れっつってんだ。それに、んな短い丈なのに人目気にしねぇのか?階段とか…ダメだろ、風紀が乱れる」
「え?…あっ、ごめん、そうだよね、他の男子の前で足さらけ出したら面白くないよね。明日からはちゃんと直すね」
「今直せ」
「ええっ?でも、ニーハイ長いから、スカート直したらタイツみたいに見えちゃってなんか変だよ?」
「じゃあ脱げ」
「ええっ!?」

横島は声を荒げて顔を赤くした。靴下くらい購買で売ってんだから脱いでも問題無いだろうが。

「学校でそんな大胆な…。で、でも、土方くんがお願いするなら…どこか二人っきりになれる場所で…」
「はぁ?」
「い、今がいいの…?…わ、わかった。土方くんが言うんだもんね、脱ぐよ…」

横島は何を思ったのか、折ったスカートを直し、チャックを下げホックを外し、スカートを脱ごうとした。

「待て待て待て!!何してんだお前!」
「へ?だって、土方くんが脱げって…」
「そっちじゃねぇよ!靴下だよ!校則に遵した白ソックスなら購買にあるからニーハイ脱げってことだよ!」
「やだ、勘違いさせないでよ恥ずかしい…」

横島はチャックを上げホックをはめた。隙間からレースの何かが見えた気がしたが気のせいだとしておこう。
奇行のおかげもあって、スカート丈は問題の無い長さになった。

「土方くん、ニーハイより白ソックスのが好きなんだね…。そこまで言うなら購買行くね」

横島は恥ずかしさで熱くなった顔を冷ますように、顔を手でぱたぱたと扇ぎながら購買に向かおうとした。まだ指導の途中なのに行かれては困るので腕を掴んで引き留めた。

「きゃっ、何何??」
「まだ話の途中だろ、行くんじゃねぇよ」
「そうなの?ごめんね、土方くんそんなにいっぱい私と話したかったの?照れちゃうな…」
「何照れてんだ」

訳が解らないが腕を離すと横島は俺に向き直る。

「それで、用って何?」
「そのネックレスは何だよ、外せ」
「こ、これはたっくんに貰った大事な…」

彼氏からのプレゼントかよ調子に乗りやがって。だからって校則違反だろ。
イラッとしてつい舌打ちをしてしまうと、横島はビクッと肩を震わせた。

「ち、違うの!たっくんって、お兄ちゃんだよ!ほら、さっきも彼氏いませんって言ったよ!お兄ちゃん、シスコンだから、彼氏持ちに見えるから男よけに付けとけって…」
「不要物だ、外せ」
「厳しいよ土方くん…。これ似合ってない?」
「ああ」
「…そ、そっか。気に入ってたんだけど…土方くんが…言うなら…」

ショックだったのか横島は泣きそうな顔でネックレスを外そうとする。こんなことで泣かせたとなると風紀委員の評判が下がりそうだ。

「いや、似合ってないことはねぇよ。つか、むしろ似合ってるから。だからそんな顔すんな、困るだろ」
「…似合ってる?」
「ああ似合ってる。けどな、校則は守ってほしいから付けるなら校外で付けてくれ」
「…うん!土方くんの言う通りにするね」

なんとか泣かれずにすんだようで、むしろ似合ってると言ったことで喜ばれてしまった気がする。
だが大人しく言うことを聞いてネックレスを外してくれた。

「まだ…何かしてほしいことある?」
「ピアス外せ。校則違反…つーか、親に貰った大事な体に穴増やしてんじゃねぇっての」
「…私の体の心配してくれてるの?」
「あーそうそう、だからそれやめろ」

対応が多少面倒になってきて返事が適当になってしまう。だが横島はなぜか嬉しそうに笑う。

「これイヤリングだから、穴なんか空いてないよ。心配してくれてありがとね、ふふ」

なんとなく騙された気分だが、イヤリングも外してくれたから良しとする。

「なんか、こんなに指摘されちゃうと落ち着かないな…」

横島は恥ずかしそうに頬に手をあてる。よく見ると横島の爪が華美な装飾を施されていた。それも指摘するために横島の手を掴む。

「ひゃっ…どうしたの!?手なんか握られたら、恥ずかしいよ…」
「爪、塗るなよ。除光液持ってるよな?すぐ落とせ」
「え…似合ってない?可愛くできたと思ったんだけど…」
「あー可愛い可愛い。でも校則違反だからやめろ。それにこの手でどうやって料理すんだ?この年で家事もしねぇのか…」

つい個人的な意見を述べてしまい、口を閉じる。そんなプライベートなところまで、風紀委員ごときが口を出すべきではない。

「…そうだよね、家事するのには邪魔だもんね。私頑張って家庭的な女の子になるね。今除光液無いから、帰ったらすぐ落とすね」
「おう、そうしろ」
「…土方くん、手大きいね」
「…悪い」

すぐに手を離したが、何となく気まずくなってしまった。なんでこんなに調子が狂うんだ。

「でも、土方くんにこんなに気にかけてもらえて嬉しいなぁ。私これからはちゃんと土方くんに指摘された通りの土方くん好みの女の子になるからね」
「…いや、個人的な好みで指摘した訳じゃねぇよ。校則守れっつってんだ」
「え?えええっ?土方くんが、スカート長めで白ソックスで装飾品の無い女の子が好きなんだと思ったから全部直したのに…。ってことは、これ風紀委員の仕事だったの?」
「そうに決まってんだろ」

初対面の女に個人的な好みで服装に口出しなんかしねぇよ。
だが横島はわなわなと唇を震わせていた。

「か、勘違いさせないでよねっ!べつに、校則守りたい訳じゃないんだから!」
「どこのツンデレ台詞だよ…」
「ただ、土方くんに好かれたかっただけだし…。話しかけてもらえて、脱げとかネックレス似合うとか可愛いとか言われて手まで握ってもらえて、女の子もてあそぶなんてひどいよ…」

間違ったことは言っていないが、人聞きの悪い言い方しやがって。俺は校則守るように注意しただけだというのになんでこんなにややこしい事態になってるんだ。

「…こんなことならもう校則なんか守ってあげない!そしたら土方くんも私を注意するために毎日話しかけてくれるよね?私その方が嬉しいからそうする」
「は?叱られるのが嬉しいかよ。マゾなら沖田でも派遣してやろうか」
「…土方くんの、ばかっ!!」

なぜか怒られた。言い返そうにも、横島が泣きそうな顔をしていたのでぐっと堪えた。

「いや、あ、ごめん、仲良しでもないのにばかとか言っちゃった…。でも、でもね?本当に土方くんに話しかけてもらえて嬉しいの。だから、明日も校則破って風紀乱すから、明日も話しかけて欲しいな」
「…話したいだけならちゃんと校則守ってから出直してこい」
「えっ、じゃあ校則守ったら土方くんに会いに行っていいの?」
「ダメって断れるような理由はねぇけど…」
「じゃあ、会いにいくね!見た目優等生にしていくから褒めてね!」

なんでそうまでして俺に会って話がしたいのか、深く考えるまでもない。こんなに嬉しそうに笑う横島を見れば一目瞭然だった。

「きっとそのうち土方くんと不純異性交遊して風紀乱してみせるからね」
「んなことできっかよ…」
「こ…交遊、してくれないの?」
「そうじゃねぇけど…風紀委員が自ら不純なことできねぇっつってんだ」
「じゃあ、純粋な異性間交遊はしてくれるんだね!わーい!仲良くしようね、土方くん!」

勝手に話を進められ、仲良くすることになってしまった。しかしここまで喜ばれているのに冷たくするのも可哀想で、俺にはできない。

「じゃ…そろそろ行くね?また明日会おうね!」

横島は満面の笑みでそう言い、ひらひらと手をはためかせながら去っていった。
服装の注意をするだけのはずだったのになぜこうなった。

「…まぁいいか」

しょーがないな。と思いつつ、あいつに好意を持たれるのもそんなに悪くない、なんて考えてしまっていた。