一人より二人


「オイ…こんなとこで何やってんだ」

突然声をかけられて、ハッと目が覚める。
もしかして私は眠っていたのか。公園のベンチに座ったままで。

「聞いてんのか?」

その声の主が近付いてくると共に、私に降り注いでいた水滴が当たらなくなる。顔をあげて振り向くと、鬼の副長が私を傘の下に入れてくれていた。

「あぁ、おはよ」
「何時だと思ってんだ」
「えーと…午後6時くらい?」
「残念、深夜0時だ」

眠ったことによって私の体内時計は6時間もずれていた。夕方くらいにここに座ったと思ったんだけど、予想以上に眠りが深かったらしい。雨に打たれても目が覚めなかったんだから。
何時間濡らされていたのか、全身ずぶ濡れになっていた。手に持っていた携帯も濡れて、画面はつかなくなっていた。

「うーわ、手ふやけてる…」

ふわっふわのタオル欲しい。そう思ったら、タオルではない別の物が肩にかけられた。少しだけタバコ臭い、真選組の制服だった。

「優しいじゃん」
「風邪引くだろ」
「もう手遅れだと思うけどね…」

さりげない優しさが嬉しくて泣きそうになる。でもそんな顔見せたくなくて、土方さんから顔を背けた。

「帰らねぇのか」
「…今、一人になりたくなくて」
「ずっとここで一人でいたくせに」
「外だから、人いるじゃん。独り暮らしだから、家帰ったら一人だから、寂しくて…」
「…何かあったのか?」

そんなこと聞かずに帰ればいいのに。こんなことまで、真選組の仕事なのか。

「彼氏に浮気されて、ふられたの。それがむかついて、落ち着こうと思って空見てたら寝ちゃった」
「次があんだろ」
「…あればいいんだけどね。浮気しなくて私だけが好きで優しくて、顔が好みで包容力と財力と権力があって、私のこと傷付けない人がいいな」

だからもうしばらくは、寂しくても一人でいいや。傷つけられるくらいなら、寂しいだけの方が気が楽だ。

「顔の好みは知らねぇが、その他が当てはまる奴ならいるぞ」
「そんなのいるなら連れてきてよね」

ただの慰めだったら許さないんだから。なんて考えていたら、後ろから腕が回ってきてしっかりと抱き締められた。

「で、お前の好みはどんな顔なんだよ」
「かっ…からかってんの!?」
「真面目に聞いてるんだが」
「…ふられたての女の子に漬け込むの、ずるいと思うんだけど」

こんなことでドキドキしてしまう自分が単純すぎて悔しくなる。土方さんの体温が暖かくて、安心してしまうのが更に悔しい。

「質問に答えろよ」
「…目付きが優しくて、笑顔が素敵な顔が好き」
「…からかってんのか」
「…真面目に答えてるけど」

土方さんの声には怒気が含まれていて少し怖い。怖くて全身に響くような声で、ぞくぞくする。

「つーか、世の中顔じゃなくて中身だろ。顔だけで判断すんじゃねぇよ」
「土方さんが顔の好み聞いてきたのに…」
「そんなことよりだ。…俺じゃ不満か?」

真面目な声で耳元で喋るなんて、卑怯だ。好きなのかどうかも解らないまま土方さんを受け入れてしまいそうになる。

「寝起きで混乱してるんで、考えさせてください…」
「いつまで?」
「…いつまで、待ってくれるの?」
「ずっと」

健気な一途アピールをされてクラッとくる。土方さんのこんな一面を知っている人は他にいるのだろうか。今までそんな素振り見せなかったくせに、ギャップで私を殺す気か。

「…次会ったとき、答えるよ」
「じゃあ明日また会いに行ってやるから」
「そんなに早く聞きたいんだ?」
「早くしねぇとまたお前に悪い虫がつくだろ」
「悪い虫しか寄ってこないみたいな言い方しないでよ…」

もしかしたらその悪い虫ってのはこの土方さんのことかもしれないけど。独り身になったところを狙うだなんてずる賢いこともするし。

「風邪ひかれても困るし帰るぞ。送ってやるから」
「…送り狼ってやつ?」
「されてぇのか?」
「え、遠慮します!」

されたいだなんてそんな尻軽なこと私の口から言えるわけがない。
帰るために土方さんの腕をどかして立ち上がると、着物がずぶ濡れなせいで体が重くなっていた。

「これはもう風邪確定かな…」
「家で大人しくしてりゃ明日看病しに行ってやるよ」
「…下心が見え隠れしてる気がするよ」
「お前の方に下心があるからそんな気がするだけじゃねぇのか?」
「そんなことないもん、土方さんと一緒にしないで!」

私に下心とか、そんなわけない。土方さんなんか好きじゃないんだから…そんな感情抱くわけがない。

「惚れた女が弱ってる隙に付け入るほど俺は卑怯じゃねぇよ」
「…土方さん、二人きりだと大胆なこと言うんだね」
「悪いか」
「…ううん」

むしろ嬉しくて惚れてしまいそうになる。というか、この数分だけで惚れてしまったのかもしれない。

「明日土方さんが来てくれるまで…ずっと土方さんのこと考えてみるね」
「…そうか」
「真剣に考えるから…、明日になって突然気持ちが冷めたとか言わないでね」
「言うわけねぇだろ」

土方さんはあくまで真選組だし、無責任なことは言わないしやらないだろう。この人と一緒にいれば、今度こそ幸せを感じることができるだろうか。

「でもいつの間に私に惚れてたんです?」
「彼女でもねぇのに教えるかよ」
「彼女になったら教えてくれるの?」
「…考えとく」
「そんなに私のことばっかり考えて仕事に支障はでないの?」
「支障が出たら公務執行妨害で逮捕してやるよ」
「うわ、自分勝手だ」

でも逮捕されるくらいこの人の思考を私で埋め尽くすことができるなら、それも幸せかも、なんて考えてしまった。