告白現場


「うっぜぇ…」

俺はイライラして壁を殴っていた。どうしてこんなに嫌な気分になったかというと、それは数分ほど前に遡る。


俺は放課後、生徒会の役割でいつものように学校に異常が無いか見回っていた。生徒もほとんど下校し終わり、残っている生徒はほんの僅かだった。
学校中をだいたい見回り終えて、残すは屋上の確認だけだった。

どうせいつも通り異常なんて起こるわけが無いと思いつつ、屋上の扉へと続く階段を登っていく。
そこで俺はある異変に気がついた。立ち入り禁止と書かれているのに、扉の鍵が開いている。
不審に思い扉に近付き耳を澄ませてみると、男女の声が聞こえてきた。


「あの…いきなり呼び出してすみません。僕、C組の西澤っていいます」

放課後に呼び出しだなんて、告白か喧嘩くらいしか思い付かない。男女だから前者だろう。
屋上への無断立ち入りは校則違反だが、ここに割って入るほど俺も鬼じゃない。注意は二人が校舎内に戻ってきてからでいい。
盗み聞きをするのも悪いので俺は扉から離れようと背を向けた。

「ううん、別にいいよ。それで…用件ってのは…」

扉の向こうから、聞き慣れた声がした。けして聞き間違えることの無いであろう、透き通った横島の声が。

「僕みたいに、話したことも無いし冴えない奴が言うのは気が引けるんですが…言わせてもらいます」

男子生徒の震えた声から緊張が伝わってくる。離れようとは思っているのに、俺の足が、動こうとはしてくれなかった。

「僕、一目見たときから横島さんのことが好きです。もし、彼氏も好きな人も居ないなら…付き合って下さい!」

俺が知らないだけかもしれないが、あの横島に彼氏がいるだとか浮わついた話は聞いたことがない。でも好きな奴ってのは、どうなんだ。

「ごめんね」
「…そう、ですか」
「私って人の期待を裏切るくらいに不真面目だし怒りっぽいし寂しがり屋だから、付き合ったりしたら苦労させちゃうと思うの。私の外見だけでも惚れてくれたなら嬉しいよ。でも、見た目ほど良い子じゃないからさ」

このZ組に居るぐらいだ。本人の言う通り、良い子ではないんだろう。

「…わかりました。無理言ってすみません」
「いいよ。言ってくれて、嬉しかった」
「けど1つだけ聞かせてください。好きな人って…いるんですか」

知りたい。いや、知りたくない。
俺なんかべつに関係無いのに、この答えだけは聞きたくなった。

「いるよ」

そんな答えは、聞きたくなかった。居ないって言葉が聞きたかった。

「そ…そうだったんですか」
「うん。ちょっと気になるって程度だけどね」
「じゃあ、僕は諦めるしかないですね。今日、来てくれてありがとうございました」

二人が戻ってくる足音が近付いてきて、やばいと思って、掃除用具入れの影に隠れた。
男子生徒が入ってきて、階段を駆け降りていった。
それに続いて横島が入ってきた。驚いたことにこっちに気がついて目が合った。

「うわっ、十四郎くん。…もしかして聞いてた?」
「…悪い」

横島は意外にも顔色を少しも変えていなかった。照れたりとかはしないのか。

「恥ずかしいなぁ。今のこと誰にも言わないでね?」
「わかってる」

俺は横島と階段を降りる。二人きりの状況なんかあんまり無い機会だというのに、俺の胸中は複雑だった。

「…好きな奴、居るのか」
「えっ。…そんなの居ないよ。ああ言えばあの人も潔く諦めてくれるかなと思って、いるって言っただけだよ」

困ったように笑う横島だったが、目を合わせようとはしてこない。
それよりも、告白されても照れないくせに、好きな奴を聞いただけで頬を薄く染めはじめた。

「いるわけ、ないじゃん」

可愛らしい反応を見せてくる横島。今横島は誰の顔を思い浮かべているのだろうか。この好きな奴ってのが俺だったらどんなに嬉しかったことか。胸がきつく絞められて、苦しくなった。

「ほら、もうこの話はやめようよ。十四郎くん、この後まだすることあるの?無いなら一緒に帰ろうよ」

横島はにこっと笑って言ってくる。今までだったら嬉しかったのかもしれないが、今となっては苦しいとしか感じない。

「悪いけど、まだやること残ってんだ。先帰っててくれ」
「…そっか。わかった。それじゃ、また明日ね」
「あぁ、また明日」

やることなんか全然残っていない。屋上の鍵を閉めることくらいだったが、このまま平然と一緒に居ることなんてできそうになかった。 軽く手を振って俺と横島は別れた。

俺はそれから、らしくもなく大きなため息をついていた。自分でも驚くほどに、横島を気にしていることを自覚してしまった。胸がモヤモヤして、苛々した。こんなことで自覚なんてしたくなかった。いっそ気付かない方が楽だった。

「うっぜぇ…」

だけどその後、帰ろうと駐輪場へ行くと笑顔の横島が待っていてくれて、思わず口元が緩んだのは秘密の話だ。