誘い受け


万事屋で一人で留守番をしていたら呼び鈴が鳴らされた。
寒くて炬燵から出たくなかったけど、居留守なんか使ったら留守番の意味が無いので出てあげた。
玄関の扉の向こうには、見慣れた大好きな顔があった。

「銀時はいるか?」
「桂さん!外寒かったでしょ、上がりなよ!」

銀さんたちはみんな仕事で外に出ている。
私以外誰もいないから桂さんの手を引いて万事屋の中に連れ込んだ。

「桂さん手冷えてるよ!炬燵暖かいから入って待ってて、お茶いれてくるから」

桂さんを座らせて、急いでお茶をいれにいった。
直ぐに桂さんの前にお茶を出すと、桂さんは冷えた手を湯飲みにつけて暖めた。

「外雪降ってたの?積もってるよ」

桂さんの頭や肩に少量の雪が積もっていたので払ってあげる。

「ところで銀時はどうしたのだ」
「お仕事だよ」
「いつ帰る?」
「そのうち帰ってくると思うから、ゆっくりしてれば?」

本当は銀さんたちが明日まで帰ってこないのは知っている。
だがそんなものは知らないふりだ。

「手、冷たいなら私が暖めてあげるよ」

桂さんの手をとって、私の手で包み込む。
すっかり冷えきっていて、私の体温が奪われそうだ。

「お茶おいし?」
「あぁ、美味いぞ」

桂さんは私に手を握られていることなんて何も気にせず、空いてる方の手でお茶を飲む。
こんなに触れているのに反応が無さすぎてつまらない。

「桂さん冷たい」
「外を歩いてきたからな」
「そういうことじゃないし…」

せっかく二人っきりだし手を出してしまおうと思い、桂さんの手を離して、今度は後ろに回り込んで抱き付いた。

「どう?暖かい?」
「…何がしたいんだ」
「何って…破廉恥なことだけど」

首筋に顔を埋めると、さすがにくすぐったかったのかもぞもぞと抵抗しだした。

「桂さん冷たいから、破廉恥なことして暖めてあげようと思って」
「余計なお世話だ!」
「静かにしてよね」

がぶっと耳をあまがみすると、桂さんはびくっと肩を震わせた。
綺麗な髪がくすぐったい。

「歳上をからかうと痛い目にあうぞ…」
「お仕置きでもするの?」

わざと耳元で囁きながら息を吹きかけると、桂さんの頬が紅潮するのが解った。

「桂さんにだったら、お仕置きでも何でもされてもいいよ」
「…怒るぞ」
「いいよ。怒った顔も素敵だよ」

冷えきった桂さんを暖めるようにすり寄ってぴったりとくっつく。
銀さんたちがいないとこんなこともできるなんて、幸せすぎる。
ただ、桂さんが怒って来なくなったら困るけど。

「桂さん、今日暇なの?」
「…特に予定は無いからこうして大人しく銀時を待っている」
「銀さん今日帰ってこないよ。神楽ちゃんも新八くんも定春もね」
「何だと?」
「桂さんと二人きりで楽しいからさっき嘘ついちゃった」

炬燵と私のおかげか、桂さんの体温が上がってきた気がする。

「ね、今日暇ならさ、泊まってかない?若い女の子一人でこんなとこで寝るなんて危ないじゃん?」
「お前は俺を何だと思ってるんだ」
「桂さんだと思ってる」
「そんなことは聞いていない」
「桂さんは将来私を養ってくれる人だと思ってる」
「…どうしてそうなる」

桂さんはため息をつく。
さっきから割りとアプローチしてる気がするのに、どうしてこんなに反応が薄いんだ。
もしかして、私に興味が無いのかな。
だとしたらすごく、馬鹿みたい。

「冷たいよ、桂さん…」
「そうか、俺は大分暖まったぞ」
「私は桂さんのせいで冷えた」

桂さんから離れると、身も心も冷えてしまったような感覚がした。
寂しくてもう一度くっつきたかったけど、ここまで反応の悪い人にもう一度くっつけるほど、私の心は強くない。

「桂さんなんか人の温もりのありがたみが解らずに炬燵で一人ぬくぬくしてればいいよ…」
「何をすねているんだ」
「すねてなんかないし!」

桂さんなんかどうせ私のことをまだまだ子供だと思ってなめているに違いない。
ちょっと年の差があるから何だっていうんだ。
人妻じゃないからって何の文句があるんだ。

「優も炬燵に入ったらどうだ、暖かいぞ」
「…ふん」

言われた通りに炬燵に入った。
桂さんの横にぴったりとくっついて。

「…こんなに広いのに何故わざわざ横に来る」
「寒いからくっつきたかっただけだし」
「そうか、寒いか…」

桂さんは暫く黙ったかと思うと、突然私の肩を引き寄せて抱き締めてきた。
桂さんの腕の中はとてつもなく暖かくて、私も桂さんの体に腕を回した。

「なんで、急にこんなことするの」
「くっつきたかったんじゃないのか」
「そうだけど…ずるいよ。桂さん私のことなんか何とも思ってないくせに、こんなことされたら、余計に桂さんのこと好きになっちゃうじゃん…」

叶うはずのない想いが募って苦しくなる。
寒いからという理由だけで抱き締められているのも解っているけど、それでも少しは期待してしまう。

「人の気持ちを勝手に決めつけるな」
「へ?」
「何とも思ってなかったら、銀時がいないと解った時点で帰っているに決まってるだろう」

桂さんの腕に力がこもる。
じゃあ桂さんは、何を思って私を抱き締めてくれるの。

「はっきり言ってくれないと、解らないよ…」
「解らないならこのまま大人しくしていろ」
「…ちゃんと言わないと、ちゅーしちゃうぞ」
「それはダメだ」
「なんで。やっぱり桂さん私のことなんか…」

腕の力を緩めると、桂さんの力も緩んで体が離れる。
桂さんがどんな顔をしているのか見たくて顔を上げたら、桂さんの顔が近付いてきた。
驚いて後ろにさがろうとしたら肩を掴まれ、されるがままに唇がぶつかった。
すぐに離れてしまったが、私を真っ直ぐ見つめる桂さんの眼はとても真剣で、胸が苦しくなった。

「こういうことは男からするものだろう」
「…こういうこと、する前に何か言うことがあるでしょ」
「一言断った方がよかったか?」
「そうじゃなくて!好きとか、なんか、私のことどう思ってるのかとか、さ…」

すっごく嬉しいけど、言葉にして言って欲しいよ。
不満げな顔をしてみるが、顔が熱いから照れ隠しにしか見えないだろう。

「好きに決まってるだろう、ばかめ」
「…はっきり言えるじゃん」
「…言いたくなかったがな」

照れ隠しなのか何なのか、桂さんにきつく抱き締められる。
好きって言いたくないとはどういうことだ。
両想いが嫌なのか。

「行動はするのに、言うのは嫌なの?」
「…好きだと言って、両想いだと解ったら、歯止めがきかなくなるだろう」
「両想いなんだから、歯止めきかなくても困らないよ?何我慢してるの?」
「…家主が居らぬからといってこんなところで破廉恥なことをする訳にもいかんだろうが」

たしかに桂さんからしたら万事屋は他人の家だし、私もただの居候であって、自分の家とは言えない。
そんな他人の家で破廉恥なことをするわけには…


「…でもさ、人の家でそういうことする背徳感って、燃えない?人妻の家で不倫、ってのと似てるよね」
「…どこでそれを」
「銀さんに、桂さんの好み聞いたら教えてくれた」

聞いたときは驚いたけど、人それぞれ好みはあるんだから気にしない。
でも桂さんは、知られたことを気にしているのか黙ったままだった。

「…桂さん?」

不安になって名前を呼んだら押し倒されたが、気をつけたのか倒れた場所には座布団があって背中は守られた。
体はもう炬燵からすっかり出てしまっていて、炬燵でイチャイチャしていた意味がない。

「誘ったのは優だから、今さら嫌がっても遅いからな?」
「こ、炬燵で寝たら風邪ひくよ?」
「そしたら俺が看病してやるから大丈夫だ」
「…それは悪くないかも」

襲われるのも風邪を引くのも看病されるのも、桂さんとなら悪くない。
私は喜んで桂さんの全てを受け入れることにした。