届かない


「九兵衛さん、お茶飲みませんか?」

鍛練を終えて休憩していたら、優ちゃんがにこにこしながらお茶とお菓子を持ってきてくれた。

「あぁ。頂こう」

机の上に僕と優ちゃんの分の湯飲みが並べられる。

「このお饅頭、さっき東城さんにもらったんですよ」
「…何か変なものでも入っていないだろうな」
「大丈夫ですよ。ちゃんと美味しかったですから」
「…、食べたのか?」
「あっ。えーっと…、美味しそうだったんで、ちょっとつまみ食いしちゃいました」

えへへ、と可愛らしく笑う優を見ると、僕の胸の奥がきゅんと音を立てる。

「ずるいじゃないか。僕は優ちゃんが来るのを待っていたのに」
「あ、そうだったんですか?ごめんなさい、先に食べちゃって…」
「いや、怒っているわけじゃないんだ」

ただ、僕よりも饅頭を優先したことがちょっと気に入らないだけで。

「食べましょうよ。美味しいですよ」
「うん」

優ちゃんの言うとおり饅頭を口に運ぶ。
美味しい。東城のくせに僕の味覚に合うモノを選ぶとは。

「やっぱり美味しいですねー。私、このお饅頭好きです」

饅頭のくせに優ちゃんに好きだって言われるなんて、ずるい。饅頭なんかに嫉妬する僕もおかしいとは思うが。

「優ちゃん」
「はい?」
「僕のことは、好き?」

優ちゃんは一瞬きょとんとする。
でもすぐににっこり笑って、

「ええ。好きですよ」

と言った。
違う。僕が言って欲しいのはそういう好きじゃない。

「…そっか、それは良かった。僕も、好きだよ」

僕の気持ちは、届かない。