言わないで


「九ちゃぁーん!」

すがりつくような声で僕を呼びながらやってきた優ちゃんは、後ろから僕に抱き付いた。突然のことで驚き、背中にあたる柔らかい感触に焦ってしまう。

「おはよう九ちゃん、今日も可愛いね。毎日可愛いね」
「おはよう…藪から棒にどうしたんだ」
「いやね、九ちゃんが可愛くて愛しくて堪らなくて…」

優ちゃんが僕を褒めまくって甘えてくるのは大抵、何か頼み事があるときだ。いいように使われている気がせんでもないが、頼られるということは僕を認めてくれているということだ。喜ばしいことなんだ。

「で、今日は何?宿題でもやり忘れたのかい?」
「わっ、なんで解るの?」
「優ちゃんのことなら何でも解るよ」
「ほぇー、さっすが九ちゃん!大好き!」

恋愛感情の全く含まれていない言葉だというのに僕はドキッとしてしまう。

「それでね、さっそくなんだけど、ノート見せてくれないかな…?」
「それは構わないが、自分でやらないと意味は無いよ?」
「解ってるんだけどねー、つい忘れちゃって、へへっ」

机の中からノートを取り出すと、優ちゃんの手が僕から離れてノートを受け取った。

「九ちゃん私のこと叱ってくれるし優しくしてくれるから大好き!やっぱり持つべきものは友達だね!」

優ちゃんはいつも笑顔でそんなことを言うんだ。友達と言われて僕が苦しんでいるだなんて思いもせずに。