夢のような一時

「藍染隊長。横島です」
「どうぞ」

部屋に来い、と言われていたため夜に訪れた。

「こんな大変な時に呼び出してどうしたんですか?起きてる人多いんだから、私がここに来たことだって見られてるかもしれないですよ」
「構わないよ。どうせもう終わることだ。おいで、優」

瀞霊廷に旅過が侵入した。だから探し回るために夜中でも忙しく走り回っている死神は多数居た。みんな旅過の方に気をとられていそうだから、私が五番隊長さんと密会していたからって、そこまで気にも止めないかな。

「反逆を起こす準備しながら女の子を部屋に呼ぶなんて、悪い人」
「そういう物騒なことは軽々しく口にしないでくれるかい?それに、もう女の子なんて年じゃないだろう」
「見た目は充分なくらい若くてぴちぴちな女の子なんですけど。惣右介くんの方が老けてるよ」
「眼鏡のせいで冴えなく見えるだけで、老けたつもりは少しもないよ」

惣右介くんの傍に腰掛けると、惣右介くんはいつもの黒渕眼鏡を外した。長年一緒にいるけど、たまにしか見られないせいで、素顔を見るたびドキッとする。その冷めた瞳を向けられるだけで、ぞくぞくする。

「久しぶりに部屋に呼んでくれたんだから、可愛がってくれるんだよね?」
「残念だけど、そんな暇は無い。こんな事態だから、いつ誰が訪ねてきてもおかしくないからね」
「こんな事態を起こしたのは惣右介くんなのに…」
「文句があるなら帰ってくれても構わないよ」
「意地悪」
「意地悪だと知りながらも僕についてきてくれるなんて、優は本当に可愛いね」
「…面白くない」

惣右介くんはいつも余裕そうで、腹が立つ。私のことを完全になめているということがよくわかる。
しかし惣右介くんの言う通り、そんな惣右介くんについていくと決めたのは私自身だ。

「それじゃあ少しだけ、楽しいことでもしようか」
「楽しくなかったら怒るよ」
「やる前から怒っている子を楽しませるのは面倒だな」
「怒ってないから楽しませて」
「困った子だ」

惣右介くんは私の額に口付けて、また眼鏡をかけてしまった。

「私、眼鏡無い方が好き」
「どうせこの顔も見納めだ。五番隊長としての藍染惣右介はもうすぐ死ぬんだから」
「…うまくいくんだよね?」
「当たり前だろう。僕を誰だと思ってる」
「みんなに愛されてる藍染隊長」
「そうかい。愛してくれているみんなを裏切る形になってしまって、僕はとても悲しいよ」
「心にも無いことを」

惣右介くんは適当なことを言いながら私を抱き締めてくれた。私もそれに応えるように、惣右介くんの体に腕を回した。

「五番隊長と他隊の席官の秘密の恋なんて、よく考えたらとても尊いものだと思わないかい?」
「今までよくばれなかったよね。惣右介くんのせいで私の声、外に聞こえててもおかしくなかったのに」
「結界を張ってたからね」
「…そんなことしてたの?知らなかった。じゃあ声抑えなくてもよかったんじゃん」
「周りを気にして恥じらう君が可愛かったから」
「惣右介くんのえっち」

そんな貴方のことも好きだけど。
虚圏に行ったら、周りなんか気にせず毎日愛してもらえるのかな。それとも、忙しくなって相手してくれなくなるのかな。それはちょっと寂しいな。

「私が旅過に殺されたらどうする?」
「君が殺されないように、監禁でもしておこうかな」
「へぇ、私のこと虚圏に監禁しようとしてるのはそういう理由だったりするのかな?」
「自分から監禁されに来ているくせに、よく言うよ」
「えへ、ばれた?」

だって虚圏に行ってしまえば、そこでは惣右介くんが王なんだ。私と惣右介くんが、関係を隠す必要も無くなるんだ。大好きな惣右介くんが私を死神の手の届かないところに連れていってくれるというのだから、行くしかないじゃないか。

「もうこれから、藍染隊長って呼ぶこともなくなるんだね」
「そうだね、横島くん」
「…、藍染隊長、私怖いです。藍染隊長の熱で旅過のことなんて忘れさせてくれませんか?」
「…そんな暇は無いって言ったの、忘れたのかい?」
「藍染隊長として席官の女の子に手を出す機会なんて今後無いんですよ?死神としての最後のえっちしましょうよう」
「…仕様の無い子だ」
「わーい、藍染隊長大好き」

なんだかんだ言って惣右介くんは私に甘い。それはきっと、私の相手をしていても、計画を実行できるだけの余裕があるということなのだろう。気を抜いたら全てがダメになることは私でもわかる。でも惣右介くんなら大丈夫という確信がある。そして、万が一ダメになっても、惣右介くんと一緒に死ねるなら本望だとも思っている。

「んっ…藍染隊長、眼鏡したままするの?」
「あぁそうだ。なんせ、藍染隊長だからね。それより…隊長には敬語を使うものだよ。これはお仕置きが必要かな?」
「ふふ、お仕置きって、裸で瀞霊廷一周とか?」
「他人に見られるのがお好みなら、ぜひそうしてあげるよ」

瞬きをした瞬間、部屋の中にたくさんの死神が現れて、あられもない私の姿を見つめていた。こんなの、惣右介くんの幻覚に決まっている。

「さぁ、君の可愛い姿をみんなに観てもらおうか」
「冗談で言ったのに。悪趣味…」
「あまり隊長に向かって暴言を吐かない方がいいよ」

周りの死神たちは私たちを囲うように近付いてきた。幻覚だと解っていても、気が散るし、恥ずかしい。

「私、こんなの好きじゃないよ…っ」
「そうだろうね、お仕置きなんだから嫌がってもらわないと」
「…意地悪、ばか、えっち」
「うるさいよ」

赤面する私には構わず、惣右介くんは私を愛撫する。他人に見られていると意識するだけで体が敏感になってしまい、余計に恥ずかしくなってしまった。

「あっ…藍染隊長っ…」
「可愛いよ、横島くん」

惣右介くんは少しだけ余裕の無さそうな顔で、私に口付けた。こんな大人しそうな顔をしておきながら、情熱的なキスをして、幻覚で悪趣味なことをしながら私を抱こうとする。藍染隊長との最初で最後の夜なんだから、もっと丁寧にしてほしかったのに。

「藍染、隊長の…大きいですね」
「君が言うと、誰かと比べられているみたいで嫌だな」
「ふふ…じゃあ、市丸隊長と比べた結果、とか言ってみましょうか」
「…冗談じゃない。君は僕以外の男なんて知らなくていい」
「心配しなくても、惣右介くん以外と寝たことないよ」
「それはよかった…」

ふっ、と微笑んだかと思うと、ようやく惣右介くんが私の中に入ってきた。久しぶりだからか窮屈そうで、ちょっと苦しそうな惣右介くんにきゅんとする。

「っは…虚圏でも、ちゃんと、愛してね」
「あぁ、もちろんだ」

惣右介くんと一緒ならどこまででも行ける気がする。嘘つきな惣右介くんが本当に私を愛してくれているのかだって、私には解らない。それでも、今こうして惣右介くんと繋がっている時間は本物で、私を満たしてくれている。
どうかこの惣右介くんが、幻覚なんかじゃありませんように。