はじめてのチュウ

「ばっ、爆豪く、う、」
「うっせ、静かにしろ」

いつからだろう。爆豪くんと喋るようになったのは。爆豪くんと距離が近くなったのは。爆豪くんと、触れあうようになったのは。

「待って、くすぐったい」
「だから何だよ」
「…勉強、しなきゃ」
「知るか」

爆豪くんは勉強なんてほったらかしで、私の頬や首筋に唇を押し付けてくる。そのたびに爆豪くんの髪の毛が肌を掠め、くすぐったい。

「爆豪くんは、賢いからいいかもだけど、私勉強しないと良い点とれないんだから……」
「目塞いでるわけじゃねぇんだから勉強くらいできんだろ」
「集中できないって」
「知らねぇ」

からかっているのか暇潰しなのか知らないけれど爆豪くんは意地悪をやめようとしない。嫌じゃないから嫌だとも言えないし、あの爆豪くんが私にこんなことをしているなんてことが信じられないし、ふわふわとした気持ちになる。

「…爆豪くん」
「あ?」

爆豪くんと喋るようになったのは、隣の席になったときからだった。怖くてしょうがなかったのに、勉強のことでちょっと聞いたら爆豪くんが予想以上に賢いことが解って、鬱陶しがられながらも何度も話しかけていたら怒鳴られなくなった。
それから調子にのって一緒にお勉強会をしようと提案したら、はじめは嫌がられたものの、何度も言っていたら渋々承諾してもらえた。

「…私も勉強さぼる」

教室に残って勉強したり、図書室だったりしたのだが、他の人たちがうるさくて、そのうち私の家で行うことになって、今に至る。
爆豪くんと二人きりの空間になると、やたらと距離が近かった。すぐ隣に座ってくるから、教えてもらっている間に爆豪くんの方を見ると、顔が近すぎて照れたくらいだ。私だけがこんなに意識しているのかとモヤモヤしていたけど、ある日その近距離で目があって、数秒の沈黙が生まれた。その日はドキドキした以外何も無かったけど、翌日から、悪戯のように爆豪くんは私の頭や頬にキスするようになった。

「うっせぇ、黙って勉強してろ馬鹿」
「やだ、なんで私だけが」
「テメェが勉強したいって言い出したんだろうが」

あれから、どういうつもりなのか隙あらば唇以外のところにキスしまくってくるし、髪に触れたり見つめたりもしてくる。気が気ではない。

「……私だって、やられてるばっかじゃないよ」

初めて、私から、爆豪くんの頬にキスをした。爆豪くんは目を見開いて、私と視線を交わらせた。

「そういうことできんなら、口にさせろや」

爆豪くんは親指で私の唇をなぞる。そんなとこ人に触られるの初めてで、頬がカッと熱くなる。爆豪くんはそのまま私が何も言う前に顔を近付けてきて、唇を重ねた。すぐに離れたものの、そのまま固まっていたらまた、何度も何度も唇を奪われた。

「ば、くごうく、」
「……嫌か?」

嫌じゃない。それに、そんな切ない顔して聞かれて、嫌だなんて言えるわけがない。

「…次のテスト、悪かったら爆豪くんのせいだから」
「悪かったら次もまた勉強教えてやるわ」

なんでそんなにポジティブなの。
ニヤリと笑う爆豪くんにはもう何も言えなくて、勉強なんてほっといて爆豪くんとじゃれ合った。先に好きだとか言わなくていいのか、なんて思いもよぎったけど、爆豪くんから言われるまで、このまま陰でイチャつくだけの関係でもいいかな、なんて思ってしまった。