君と一緒なら

「檜佐木くんが楽器!?うける!!」

夜中に汚い音が聞こえてきて、文句を言おうと音の出所を探していたら檜佐木くんの部屋にたどり着いた。見てみれば現世から持ち帰ったギターの練習をしていて、笑ってしまった。

「勝手にうけてんじゃねぇよ」
「えっ、だって、下手くそすぎでしょ」
「だ、だから練習してんだよ!」
「私も触っていい?」
「…好きにしろ」

どうせ無理だろうけど、なんて言ってくる檜佐木くんがちょっとうざい。目にものを見せてやろうと思い、檜佐木くんが見ていた初心者のためのギター本を見て、書いてある通りに弦を押さえて弾いてみた。

「…檜佐木くん、不器用だよね」

慣れていないから小指はちょっと動かし辛いけど、初めてでもそこそこ弾けてしまった。檜佐木くんほど汚い音はでないし、どうやらギターの才能は檜佐木くんより私の方が上らしい。

「どう?うまくない?」
「…悔しい」
「へへへ」
「…もうそれお前にやるよ。俺に才能は無ぇ」
「えっ、ちょっと拗ねないでよー」
「俺はもう寝る」
「…子守唄でも弾いてあげようか?」
「うっせ!」

檜佐木くんの趣味を奪ってしまったのは先週の話。
そしてまた檜佐木くんは新たな趣味を見つけ出し、現世からバイクとかいう強そうな二輪車を持ち帰っていた。

「総隊長にど叱られた…」
「そりゃ瀞霊廷内であんなもの乗り回してたら怒るでしょ」
「あ、そうか。瀞霊廷の外なら問題ないのか」
「そういう問題?」
「明日横島も非番だったよな?後ろ乗せてやるからちょっと付き合えよ」
「怒られた時のための道連れにでもするつもり?」
「ちげーよ。絶対楽しいから」

檜佐木くんの楽しそうな顔が見れるなら、と思って、翌日ちゃんと檜佐木くんの元を訪ねた。そして物置に隠しておいたらしいバイクを手で押しながら、門まで来た。
けど瀞霊廷の外にも居住区は広がっているんだから結局叱られるのでは?と門番に言われてしまった。

「どうしよう、一般人轢いたらそれこそやばいよ」
「…たしかにな」
「修練場使う?十一番隊舎の方、なんか広いとこあるじゃん」
「十一番隊の奴らが居たら轢いちまうぞ」
「あそこの人たちなら強いからバイクでぶつかったって死なないよ」
「…それもそうか」

檜佐木くんは副隊長のくせに、私の適当な意見を鵜呑みにしてしまう。

「…でも遠いね」
「そうだな。でもここには、そこそこの距離走れる二輪車があるんだよなぁ」
「乗っちゃう?」
「乗っちゃうか」

顔を見合わせてお互いに悪ガキみたいな笑みを浮かべ、檜佐木くんは座席に、私はその後ろにまたがった。

「しっかり掴まっとかないと落ちるぞ」
「どこに掴まるの?」
「俺に」
「…私のこと誘ったのそういう目的?」
「何のことやら」

まぁいいか、と檜佐木くんの体に腕を回した。公衆の面前でこんな大胆なことするなんて、と恥ずかしくなるが、赤面したところでどうせ檜佐木くんに私の顔色なんか見えやしない。

「行くぞ」

聞き慣れないエンジン音がして、緊張する。動き出したらなんだか怖くて、檜佐木くんに体を寄せてしまう。でも普通に走り出して安定したら、風を感じて楽しくなってきた。

「檜佐木くん!これ楽しいね!」
「だろ!飛ばすぞ!」

こんなに轟音を立てて走ったら、また総隊長に怒られるぞ。他に瀞霊廷でバイク乗り回す馬鹿なんて居ないんだから、すぐばれるよ。

「あぶねっ」
「ひゃっ」

急に蛇行運転をするから何事かと思ったら、十一番隊の人を轢きそうになっていた。

「き、気を付けてよ!落ちるかと思った!!」
「おおおお、お前こそ気を付けろ!!背中!!胸!!いい加減にしろ!!」
「檜佐木くんのせいでしょ!!ばか!!」

勢いで抱きつきすぎたせいか、体を密着させてしまっていた。檜佐木くんがこんな運転するならもう二度と後ろになんか乗ってやるもんか。
やっと人気の無い林まで来れたから、私たちはバイクから降りた。

「ここならさっきよりも乗り回せるな」
「ねぇ、私も運転したい」
「…いや、難しいぞ?」
「器用だからいけるって。教えてよ。私は代わりに檜佐木くんに、後ろに乗る怖さを教えてあげるから」
「怒ってんのかよ…」

渋々といった感じではあるが、檜佐木くんはバイクの運転方法を教えてくれた。これくらいならいけそうだ。

「さぁ檜佐木くん、乗って!」
「…え、練習しないのか?」
「器用だからいけるって」
「その自信はどこから出てくるんだよ!」
「いいから乗るの!」

私が座席に座れば、嫌々ながらも後ろに檜佐木くんが乗った。

「…前に乗るってことは、掴まられても文句言うなよ?」
「…どうぞ」

檜佐木くんは躊躇わず、私の体を抱き締めてきた。

「肩持つとかそのくらいじゃいけないわけ!?」
「落ちたら道連れにしたいだろ」
「最低!」
「つーか横島、ちゃんと食ってるか?細いな」
「恥ずかしいからそういうこと言わないで!!」
「うおっ」

座って抱き締められているだけの状況に耐えられなくて、バイクを発車させた。しかしこのバイクとやら、公衆の面前で密着する理由になるというのは物凄い機械だ。ただ、恥ずかしさで頭がやられそうだけど。

「どう!?運転うまいでしょ!」
「ほんっと、器用だな」
「でしょー!」

思った以上に楽しい。たしかにこれは瀞霊廷内で乗り回してしまいたくなる。今日のことがばれたら、しょうがないから私も一緒に叱られてあげようかな。

「横島と居ると飽きねぇな」
「私も檜佐木くんといると楽しいよ」
「…そっか」

檜佐木くんが黙ってしまい、不安になる。振り向こうにも、よそ見したら事故を起こしそうだし、どうしよう。

「なぁ横島」
「はいっ?」
「好きだ」

好きだ?え、今檜佐木くん何て?今何の話だっけ。私の話だよね。私のこと言ってるの?これ、返事した方がいいやつだよね!?

「わっ、おい、前!!」
「へ?」

悩んでぼーっとしていたせいか、気付いた時には目の前に木があった。慌てて方向転換したが、バランスを崩してバイクから体が投げ飛ばされた。近くでバイクが轟音を立てて木にぶつかり大破していた。

「おい!大丈夫か!?」

檜佐木くんの声でハッとした。あまり体が痛くないのは、今でもまだ檜佐木くんが私を抱き締めてくれているおかげだろうか。

「ひ、檜佐木くんこそ大丈夫!?」

少しだけ痛む体を起こして檜佐木くんを見てみれば、腕は擦り傷で真っ赤だし、頭からも血が流れていた。

「わーっ、ごめん!!い、今すぐ四番隊の人呼ぶから!」

電令神機で四番隊に連絡を入れた。場所の説明が難しかったし、ここに来られたらバイクを乗り回していたことがばれてしまう。でも檜佐木くんをどうにかしなきゃいけなかったし、ここは私が責任もって叱られよう。

「檜佐木くんだって、何もあんな危ない時に変なこと言わなくても…っ」
「…今なら言えるかな、とか思ったから」
「…前から言おうと思ってたの?」
「ああ」

そうか、檜佐木くんは前から私のことが好きだったのか。浮かれてにやけそうになるが、応急手当が先だ。
服の袖を破いて、檜佐木くんの顔にまで流れる血をぬぐう。

「私も、檜佐木くん好きだよ」
「…まじで?」
「うん、ずっと前から」
「…だったら早く言えよ」
「檜佐木くんこそ」
「恥ずかしいだろ」
「私だって恥ずかしかったもん」

それでも檜佐木くんは、私への想いを打ち明けてくれたんだ。やっぱり檜佐木くんと居ると、飽きないし楽しいし、思いがけないことを言ってくれる。

「今度の非番のときは、普通のデートしよっか」
「…そうだな。旨いもんでも食いにいくか」
「うん!」

ずっと一緒に居たいし、こんな怪我しそうなことじゃなく、可愛いデートをしよう。せっかくだから、おめかしして檜佐木くんを驚かせてみようかな。