デート計画

クリスマス特集号!なんて書かれた、いつもと違って頭の悪そうな瀞霊廷通信を見て、きっと九番隊の馬鹿な副隊長が企画したんだろうなぁ、と察する。
中を見てみても、瀞霊廷デートスポットや夜景の綺麗に見える場所、そしてなんと現世のデートスポットまで載っていた。
あの男、こんなもの調査して記事にして、何をするつもりだ。どうせクリスマス当日だって、いつも通り残業して馬鹿みたいに無駄なクリスマスを過ごすんだろう。私がデートに誘ってみれば、何か変わるだろうかと脳裏をよぎるが、お前とじゃ嫌だなんて言われたら再起不能になってしまいそうで怖かった。

「横島さん、雑誌とにらめっこしてないで仕事してください」

憂鬱な気分に浸っていたが、吉良副隊長の声で我に返った。

「…今仕事どころじゃないです。私の好きな人が厳選したデートスポットをいかに壊してこの記事を無駄にするかを考えてるので」
「デートスポット燃やしたら総隊長に怒られますよ」
「…クリスマスだけ瀞霊廷を停電させるとかダメかな」
「そんなことする気力があるならデートにでも誘った方がいいんじゃないですか」

そんなこと、できたらしてる。誘ってみてダメだったら死んじゃうし、オッケーだとしても、連れてかれるのはここで特集されてるデートスポットなんでしょ?ていうか檜佐木くん、こんなに調べたってことは実は誰かを誘うために頑張ってたんじゃない?檜佐木くんが誰かとデートするなんて、嫌すぎる。

「…クリスマス、檜佐木くんのストーカーになるから休んでいいですか?」
「欠勤理由、檜佐木副隊長に伝えておきますね」
「意地悪!!」
「どこがですか。むしろ恋のキューピッドでしょう」
「天使はそんな陰鬱な顔しない」
「鬼の形相でデートスポット燃やそうとしてる人に陰鬱とか言われたくないです」

結局、檜佐木くんからデートに誘われることもなく、クリスマス当日になった。最後まで期待して、クリスマスイブだって仕事しながら檜佐木くんからの連絡を待っていた。でも何も無いままクリスマスになってしまったから、私はいつも通り仕事をするしかない。
起き上がって枕元を見てみても、プレゼントなんて置いていない。サンタさんって何なんだろう。現世の妖怪的な何かだったのかな。
ふと時計に目をやると、長針も短針も11のあたりをさしていた。

「…寝坊した!?」

昨夜やけになって飲酒したせいだろうか。慌てて布団から飛び出て身支度を済ませ、部屋を飛び出した。しかし誰かに腕を掴まれ、私の足は止められた。

「うわ!!何!?」
「起きるのおせーよ」

私の腕を掴んでいたのは、私を散々悩ませた檜佐木くんだった。

「用があるなら後でいい!?遅刻だから早くいかないと、」
「お前今日休みだろ」
「はぁ?出勤だよ、何言ってんの」
「横島が俺のストーカーするためにクリスマス非番にしたって聞いたけど?」
「はぁ!?」

いやいや吉良副隊長あんた何てことを檜佐木くんに言ってるの。ドン引きされたでしょうそれ。てことは今捕まってるこの状況、お説教のスタートでしょ。

「ストーカーするなら付いてこいよ。今から旨い飯食いに行くから」
「…行く」

檜佐木くんは意外にも上機嫌で、私の腕を離してあるきだした。付いてこいと言われてしまったし、大人しく付いていくことにした。

「…檜佐木くん、今日休みなの?」
「あぁ」
「休んで何するつもりだったの。誰かとデート?」
「まぁな」
「…そっか」

やっぱりあれだけのデートスポットやら何やらを調べまくっていたのはそういう訳だったのか。それなのに私のところに来たってことは、お目当ての人に振られたってこと?だから寂しくて、私で妥協したのかな。ああもう、やだ、つらい。

「俺が他の女とデートしてなくて残念だったな。何の話のネタにもならなくて」
「…誘わなかったの?」
「誘うつもりだったんだが、なんか勝手にクリスマスは俺のとこ来てくれるって話だったからな。まぁ、待てなくて迎えに来たんだけど」

それ私の話でしょ。え、檜佐木くん、私のことデートに誘うつもりだったの?いやいや、私の思考回路がおかしいに違いない、今のはきっとそういう話じゃなかった。あれ?何の話してたんだっけ?

「聞いてんのか?」
「…何の話だっけ」
「馬鹿。元々横島をデートに誘おうとしてたって話だよ」

檜佐木くんはちょっと照れ臭そうにそう答えた。聞き間違いじゃなければ、私は今とてつもなく嬉しいことを言われた気がする。え、ほんとに?これ夢?それとも寝起きだから寝惚けててなんか勘違いしてる?

「じゃあ、なんでもっと早く誘ってくれなかったの…。危うく、年越しまで毎晩酒に溺れるところだったよ…」
「…そんなに期待してたのか?」
「あ、」

なんだか恥ずかしくなって顔を伏せた。

「…待たせて悪かったな。今日一日ストーカーしてていいから許せ」
「へぇ、あくまでストーカーなんだ?これデートじゃないんだ…帰ろうかな…」
「いや、待て待て、デートでいいならいいんだ。デートしてくれ」
「…やっとまともに誘ってくれた」
「まともに誘ってんだから答えろよ」
「する。したい」
「…よかった」

そんな嬉しそうにされると、私のこと好きなのかな?なんて期待しちゃうんだけど。期待していいんだよね?

「横島のこと連れていきたい場所、瀞霊廷通信には載せなかったんだ」
「えっ」
「雑誌で見たとこに連れてかれても面白くないだろ?だから、楽しみにしとけよ」
「…違ったら自惚れんなって言ってほしいんだけど、檜佐木くん、私とデートする場所探したついでにあの特集記事書いたの?」
「…そうだよ。あちこち走り回ってたら隊の奴等にばれて、恥ずかしかったから今度の特集の資料集めだって嘘ついたらまじで特集にされちまったんだよ」

檜佐木くんはちょっと照れ臭そうにそう答えた。
人にばれて焦る檜佐木くんの顔はなんとなく想像つく。

「ふぅん、マヌケだね」
「まぁ、おかげで横島が今日休みにしてくれたからよかったけどな」

なんて、檜佐木くんは笑いながら私の頭を雑に撫でる。
そんな嬉しそうにされたら、私もっと檜佐木くんのこと好きになっちゃうよ。